【佳作】

【テーマ:仕事を通じて、こんな夢をかなえたい】
「本物」の感動を
東京都  鎌谷果凜  17歳

大好きなアーティストのコンサートに行くために、私は人生で初めて一人旅をすることに決めた。高校1年の夏だった。

出発当日、私は一人旅の緊張とコンサートへの期待でドキドキしながらバスに乗った。

すると突然隣の50代くらいの女性の方が話しかけてきた。

その方は自分の母親よりも年上だったが、年齢差も忘れてすぐに盛り上がった。

「現地に着いたらグッズ販売に並ぶつもりなんです」

と私が話すと、先に現地に着いていた彼女の友人に連絡し、私の分までグッズを買うように頼んでくれた。グッズは3時間くらい並ばないと買うことができない。数時間前に知り合ったばかりの見知らぬ学生に、並んで買ってきてくれるなんて。東京では感じたことのない人の温かみに触れた。

やがてバスは目的地のバス到着駅に到着した。予定時間よりも遅れてしまい、コンサート開始30分前だった。バス到着駅から会場までは車で40分かかる。どう考えてもコンサート開始には間に合わない。泣きそうになりながらタクシーに乗った。焦る私に対して

「あなたのようなコンサートに来るお客さんをたくさん乗せてるので慣れてるんです。大丈夫ですよ」と安心させてくれながら裏道を通り始めた。東京ではタクシーに乗る機会なんてほとんどないし、乗ったとしても運転手さんと話したことはなかった。運転手さんのハンドルさばきもさることながら、会話が心地よかった。さらに会場が近づくと、

「この先混むのであそこを走った方が近いですよ。楽しんで来てくださいね」

と声をかけてくれたので、私は降り、教えてくれた通りの道を進んだ。なんと開始5分前だ。

さらに進み、会場が見えてきた。開始3分前。横断歩道で信号待ちをしていると、突然

「お嬢ちゃん!横断歩道渡ったらエレベーター乗りな!いってらっしゃい!」

と隣にいた警備員さんに話しかけられた。近道を教えてくれた警備員さんに感謝しつつ、慌ててエレベーターに乗った。降りると会場は目の前。開始30秒前にして、私は会場に滑り込んだ。

時間は飛ぶように過ぎていった。最高のコンサートだった。

長い長い私の初めての一人旅は、終わりを迎えた。少しの疲れと、大きな充実感でいっぱいだった。私はコンサートで歌われた曲を聴きながら自宅最寄り駅から家までの道を歩いた。その時、秋風がふわりと吹いた。その瞬間、この旅の思い出が浮かびあがってきた。東京とはまた違った町の空気。優しい人たちとの出会い。私の胸は温かいもので満たされた。

その日から、「社会人になったらバリバリ働きたい」と漠然としていた私の将来の夢は、「旅行会社に勤めたい」に変わった。

今、私にとって「旅」とは、何よりも大切な趣味で、ワクワクするものだ。一人旅の経験以降、近場から遠出まで、色々なところに行った。名古屋に行った時は、レストランで出会ったお姉さんの方言が柔らかくて、普段方言に触れる機会のない私にとって、新鮮だった。興福寺を見たときは、教科書で見た写真が目の前にあることへの感動で出す言葉も見つからなかった。旅に出るたびに新たな出会いと発見がある。

今はネットの時代だ。それこそ興福寺がどんな建物か知りたければ、いつでも検索すればすぐにネットで出てくる。669年にできたこと。国宝になっていること。阿修羅像が有名なこと。情報はネット上に溢れている。しかし、その場所の尊厳な雰囲気をネットから感じることはできない。息をのむほどの圧倒的な存在感に、五重塔の緻密な設計。それらは直接見てこそ感じ取れる。

私の周りには、「旅行は面倒くさい」と言っている人がたくさんいる。

「親に旅行に誘われたけど、荷物詰めるのとか面倒くさいし断ったよ」

という話をしてきた友人がいた。私の夢はたくさんの人に、旅行の楽しさに気づいてもらうことだ。目的地で楽しむことはもちろん、旅中にも素敵な出会いがあるような、そんな旅行のプランを考えて世界中の人を幸せにしたい。

戻る