【入選】

「働く」人が動くということ
滋賀県  中川あかり  20歳

大学3回生になった私は、「働く」ということを、あらためて考えていた。周囲の友達は、インターン応募や、エントリーシート作成を始めている。私もこれまでに、アルバイトやインターンシップは経験したものの、「働く」とはどういうことなのかを掴むことができなかった。

そこで「働く」という字をあらためて眺めてみた。すると「人が動く」と書く。会社に勤めたり、家事をしたり、確かにこの文字が表すように「働く」とは人が動いている。しかし、ただ人が動けば「働く」ことに繋がるわけではない。人が動き、何かを生み出した時に「働く」ことになる。では、何を生み出せばよいのだろうか。そんな問いを抱えていた私は、ある出来事と出合う。それは今年の成人式のことだった。

成人式では、多くの友達と再会した。大学生活のこと、就職活動のこと等、お互いの近況を語り合った。その中で、話題の一つにあがったのが、同級生の『みずきさん』のことだった。みずきさんは小学校の同級生で、週に一度程、車輪付きのベッドで通学していた。みずきさんは生まれた時からの重い障害で、目元が僅かに動く程度、手も足も身体のほとんどが動かなかった。小学生の私達は、ベッドに横たわるみずきさんの周囲によく集まり、本を読んだり、お喋りをしたりしていた。今思えば、みずきさんのその時の思いや反応は定かではなく、全く動くことのない寝たきりのみずきさんの印象しか残っていない。

あれから10年余りが経ち、みずきさんが今、どうしているのかとても気になった。寝たきりのままなのだろうか、学校を卒業して何をしているのだろうか。私はいてもたってもいられなくなり、みずきさんの連絡先を調べ電話した。すると、みずきさんのお母さんが快く自宅に招いてくださった。私は、みずきさんとの再会に胸を踊らせ、また大人になった今、どう接すればよいかという不安と緊張でその日を迎えた。

みずきさんはやはり、自宅の一室に置かれたベッドに横たわっていた。身体の大きさも小学生の時とほとんど変わらない小柄な姿だった。ベッドの周囲にはたくさんの器具が置かれていた。その様子を見て、私の緊張は頂点に達した。

「みずき、あかりさん、来てくれたよ。」

みずきさんのお母さんがみずきさんに声をかけた。すると、

「こんにちは」

と、どこからか機械音が聞こえてきた。

私が周囲を見渡していると、

「あかりちゃん、げんきだった?」

と機械音が続いた。聞こえていたのはなんと、みずきさんが目元の動きで操作するパソコンから聞こえる音、みずきさんの声だった。それからみずきさんと私は、色々な話をした。メル友の話、最近旅行に行った話、それはまさに20歳の女子会だった。しかしこれらの話の内容を吹き飛ばす、驚く話を私は聞くことになった。それはみずきさんが今、「働いている」という話だった。

みずきさんは、私と会話をするように、誰とでもコミュニケーションをとることができる。このできることを活かして、全国から同じような境遇で悩む人達のカウンセリングを行っているというのだ。みずきさんならではの、みずきさんにしかできない、みずきさんらしい仕事だと思った。

私はみずきさんの働く姿を見て、「働く」という意味をあらためて考えた。「働く」というのは人が動くと書く。それはつまり、自分ができることで、人を助け、人の役に立つように、また社会の役に立つように動くということ。みずきさんの身体は僅かにしか動かない。しかしみずきさんは人の話を真剣に聴き、悩む人の心を支え、その人のために精一杯動いている。みずきさんの姿は、まさに「働く」姿だった。

これから私は就職活動に向かう。「働く」ということが少しわかりかけた今、自分のできることを更に高め、それが人や社会のために役立てられるよう、挑戦していきたいと思う。今度みずきさんに会ったときには、私から、私の「働く」話ができるように。

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