【公益財団法人勤労青少年躍進会理事長賞】

働くということ
秦野市立渋沢中学校  鈴木大河  15歳

小田原城がうしろに見える小田原駅のホーム。そこで列車監視をする父の姿。小さい頃よく祖母につれられ見学をしに行った。幼少の頃の記憶でおぼろげだけれど父の真剣なまなざしだけは鮮明に残っている。それが働いている父の唯一の思い出になった。

父はもうこの世にはいない。40才という若さで病気で亡くなってしまった。

父は心の病、うつ病で僕が小学校の時にはもうすでに働けなくなっていた。

責任感が強く完璧主義者だったからストレスをためこんだと母が教えてくれた。母は病院に、付き添って薬だけが増えていった。けれど父が働ける様になるには2年もかかった。

仕事人間だった父は、働けない自分にいらだっていた。「会社でバリバリ働いていた自分」から「家で休まなければならない自分」を受け入れられなかったんだと思う。

日本でこの病気で働けない人は111万6千人とされている。他の国よりも割合は多い。

体は健康なのに働いていないからただの怠け者と思われがちだ。

うつ病は脳の病気であり、今の段階で発症の原因など科学的には解明されてはいない。

父をあんなに苦しませた働けない病はまだ原因もわからないなんて。

だったら僕が原因をみつける、大学で脳科学を学んでうつ病を確実に早くなおせる方法を研究したい。

多くの人が働きたいのに、働けない病で苦しんでいる、それを救いたい。

職業体験でクリーニング屋さんに行った事がある。レジ打ち、アイロン、沢山の事を経験する事ができた。とても忙しいお店で社員さん達は汗をたらして仕事をしていた。とても生き生きしていた。そして「働くことはとっても楽しいわよ」と笑顔でお昼休みに言ってくれた。仕事が終わったあと「中学を卒業したら、ここに来て働きなさいよ、また来なさいね。」お茶とおまんじゅうを出してくれた。クリーニング屋は暑かったし、くたくただったからものすごくおいしかった。何よりもまた来なさいよの一言と一日働く事の充実感はたまらなく嬉しかった。

天国の父さん、働けるという事は幸せなんだね。働く事は生きることなんだ。一緒に働くことは一緒に生きることなんだね。

今日も小田原のホームは人が沢山いた。ホームに父が立っている気がした。

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