【努力賞】
【テーマ:仕事をしたり、仕事を探したりして気づいたこと】
思っていることがいえる会社
京都府  山田修  67歳

過労死による若者の自殺、従業員を使い捨てにするブラック企業、低賃金労働で夢を失った若者、物質文化は飛躍的に発展したのに、精神文化は著しく衰弱しているように見える現代の日本社会。

私は45年前、学校を卒業し、開局したばかりの滋賀県の地方テレビ局に入社した。社員60人のうち、40人が新卒社員の従業員構成の会社だった。社員は全員「社員会」に入会させられ、毎月、誕生日会が開かれた。社長とその月に誕生日を迎えた社員を集めた昼食会だ。県の幹部職員出身の社長が「社員は家族だ。悩み事があったら何でもいってほしい。君たちの悪いようにはしない。給料が安いのはまだ赤字企業であり、県が大株主だから、あまり高い給料を社員がいただくのは県民の皆様に申しわけないので、我慢をしてほしい」

少ししっくりこない話だが、「まあいいか」というのが当時の新入社員の偽らざる気持ちだった。仕事に不慣れなこともあり、多大の時間を要し、1年目と2年目は毎月残業が100時間を越える社員も少なくなかったので、基本給は少なくても残業代を含めればまずまずの収入が得られていた。不満の声は社員間ではあまり聞かれなかった。

就職して満2年になろうかという3月のある日、京都の映画撮影所から転職した30代前半の社員が私に話しかけてきた。「組合を作らないか」彼とは部署も違いほとんど話したことがなかった。声をかけたのは私が最初だといっていたが、なぜ私が最初かわからなかった。社員の大部分が県内出身者で、私は名古屋出身で県内に縁故がなく、秘密がばれにくいといったのも一つの要因かもしれない。

翌週には京都など近隣の放送局の労組幹部にひきあわされた。労働組合のメリットと組合勧誘の段取り、結成準備等の会合を重ねた。会合場所は国鉄(現JR)京都駅前の旅館。山の会と評し登山グループの名を語らって予約をとっていた。労働組合への勧誘をすると、多くの社員は賛同を示し、即座に加入した。

イエスマンと陰口をたたかれていた社員も不満を持っていた。「給料やボーナスが社員の意見も聞かずに、勝手に決められる」「社員は昼食の時間も十分に取れないのに、一日中机の前に座って、雑談に講じている重役がいる」「このままの安月給では結婚もできない」等の納得できない事柄が話される。私たちを指導した労働組合幹部は「声に出さなければいくら不満があっても会社は考えない」「社員は一人一人では対抗できないが、団結すれば大きな力を発揮できる」と教わった力説した。

私が声をかけられてから一か月余り、会社に労働組合結成の情報が洩れずに結成の日を迎えた。管理職を除く組合員対象者40人中28人が加入届を出した。話を聞いて加入をためらった人も組合結成の情報は会社には黙っていた。

結成届を労務担当常務に手渡すと、30分後には社長も出席して初めての団体交渉が行われ、一律に一万円のベースアップが決まった。

私が勤めていたテレビ局は過労死が起きたり、労働機基準監督署から是正勧告を受けたりはしていなかったが、労働組合を結成することで社員の待遇が良くなり、志気があがり、思っていることがいえる会社になった。

過重労働、ブラック企業、貧困化、現代の若者を取り巻く悲惨な状況を打破する一つとして、私は労働組合の結成を提案したい。私たちが労働組合を結成した1970年代で低いと思っていた30%余りの組織率も今では20%を切っている。若者をつぶしている過酷な労働環境の悪化を防ぐ一助として、労働組合を増加させることを真剣に考える大切な時期が今訪れているのではないだろうか?

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