【 公益財団法人 勤労青少年躍進会 理事長賞 】

「これでも必死に、生きてるわけで。」
東京都  山中はづき 30歳


 「死んでも勝て。負けたら終わり。それと、自分以外全員敵だと思え。君の代わりはいくらでもいて、人生は椅子取りゲーム。周りのライバルに負けないように頑張れ。」
 中学・高校時代、バレーボール部の強豪校にいた私は、今考えるとゾッとするような言葉の数々を、毎日当たり前のように顧問の教員から受けていた。
 
 あれから年月は経って、必死で生きていたら、毎日働いていたら、いつの間にか歳をとっていた。
 私は今日、30歳になった。
 「お疲れ、わたし。」
 平日の夜。ワンルームの部屋でそうつぶやきながら、帰りにコンビニで買った一番値段が高いアイスクリームを、1人噛み締めて食べていたんだ。
 
 都内市役所にて契約社員の事務OLをしている。
 障害者雇用で採用してもらい、私の発達障害(ADHD)や特性についても、理解があり、とても感謝している。
 「人一倍責任感が強くて、真面目だね」
 「いつも正確にやってくれて、精度が高いから、安心して任せられるよ」
 仕事ぶりや勤務態度を評価してもらい、嬉しくなることを言って頂くことも多い。
 きっと周りの人より、いろんなことに敏感で、ストレスも感じやすい。
 落ち込む出来事やタイミングはいつも一緒で。それでいて、ひと(他人)の心配ばかりする。
 「あなたは優し過ぎるよ。人が良過ぎるよ。みんなもっと自分勝手だよ。」
 予期せぬところで、いきなりぶん殴られるように傷つくことを言われることもある。
 それでも。生きていて、働いている。
 自分で稼がずに贅沢をしていると、生きる上での必要なハングリーさがなくなる。
 気が強くないと、人間やっていられない。
 自分が生きる中で、体感していくんだ。
 働く苦労を。喜びも。考えも。
 
 社会に出て、わかったこと。
 それは何事も
 「負けたら終わり」ではなくて、
 「やめたら終わり]ということ。
 それから、
 「誰がやっても同じ仕事」なんて、どこにもなくて。
 「誰がやっても同じ仕事」こそ、ちゃんとやること。それを積み重ねると、
 「あなただから任せたい仕事」になる。
 
 毎日終業後は、疲れ果てて帰って来るんだ。よく雑誌やネットには、「休日やアフター5を楽しもう!」と、夜は映画に飲みにヨガ…いろいろ楽しんでいる女性がキラキラ輝いているように載っている。
 私は、いやいや現実は、そんな元気なんてどこにもなくて。
 休日は次の勤務に向けてたっぷりと眠るし、家事をすればあっという間に時間が過ぎる。
 今流行りの「インスタ映え」なんて言葉とは皆無の日常だ。
 でも、私は私の人生をなかなか気に入っている。
 結婚も出産もしていないけれど、自分のことは自分でやって、働いて生活できている今、とても充実していて、幸せだ。
 職場から帰宅して飲む缶ビールの一口目が最高に美味しかったり、今日も無事に終えて自分を労りながらとる夕飯は、本当にホッとするんだ。
 だれになんと言われようと、自分の人生だから。自分が納得しながら歩んでいくことが大切だと思う。
 私の機嫌は私がとる。
 
 「最近の学生や若い子は、SNSでいいねをもらうことに命を懸けていて、自分の人生の成績表になっている」と、朝のニュース番組のインタビューで見た。
 私から言わせると、実にとんでもなく、そんなことはどうでもいいことなんだ。
 人の「いいね」より、自分の中に「いいね」が一つあれば充分だと、私は思う。
 そもそも人生に良いも悪いもない。
 こんな私は、人生をこじらせているのだろうか。

戻る