【 公益財団法人 日本生産性本部 理事長賞 】
16歳の秋、やりたいことなど何もなく、高校を中退してアルバイトをすることにした。しかし、世の中甘くはなく、面接では「高校も続かなかった人が仕事も続けられるの?」の決まり文句で4連敗。これまで勉強もスポーツも全て中途半端にしてきたつけだと感じた。それでも、近所のそば屋とご縁があり、人生初の仕事がスタートした。 仕事内容は、オーダー・配膳と簡単な調理。これまでの人生、何も真剣にしてこなかった分、仕切り直しのつもりで働いた。しかし、アルバイト面接で抱いた劣等感から自分に自信が持てず、仕事も上手くこなすことができなかった。次第に、店を切り盛りするマスターの奥さんから、「高校も出てない。」や「馬鹿はダメだ。」などの陰口が聞こえてくるようになった。そうすると、仕事中常に緊張状態となり変な汗が止まらず、空回りとミスばかりするようになった。お客さんから注文を取っている時も、厨房から聞こえてくる陰口が気になり、お客さんとのコミュニケーションもできなくなっていった。 ある日、マスターの奥さんから呼ばれた。「新しい人を採用することにしたから、明日から来なくていいよ。」そう言って今日までの給料が入った封筒を手渡された。店を後にした夜道、自分が社会から排除されたような気がして、涙が止まらなかった。誰も自分を必要としていないとさえ思った。それから4か月間、何もせずただ時間だけが過ぎる日々を過ごした。 このままじゃいけないと思い、高校を再受験し大学へ行こうと考えた。2度目の高校生活では、今しかできないことに自然と真剣に向き合うことができた。そして、悔しさが原動力となり、第1志望の国立大学へも入学することができた。 大学生になり、3年ぶりにアルバイトをした。仕事への苦手意識は拭えていなかったが、自分に合う仕事を見つけたいとの思いから、様々なアルバイトを経験した。家庭教師、引越し、家電販売、博物館の事務、NHKの集金、ゴルフ場の整備、生物調査、農作業、スタントマン等。 これらの経験を通じて感じた仕事をするうえで必要なことは、「人の役に立っている実感」と「周りの人との良好な関係」だと思った。どの仕事も「人の役に立っている実感」があれば、やりがいを感じられるし、「周りの人との良好な関係」があれば、困りごとがあっても一人で悩まなくていい。つまり、「人とのつながり」が大切なのだ。 私が初めてアルバイトをした時、上手くできなかったのは、周りを見る余裕がなく、それを相談する人間関係もなかったためだと思う。 現在私は、会社員11年目で昨年から管理職の立場となった。ダイバーシティの時代で様々な仲間と働いている。考え方の違いに驚くことも多いが、毎朝15分全員が会話する雑談の時間を設けたり、定期的な社員旅行を企画したりして、お互いを理解し合い何でも話せる風通しの良い環境づくりに取り組んでいる。 もし、昔の私のように躓いた仲間がいても、誰しも得意不得意があり、それを認め補い合っていくことで「人の役に立っている実感」と「周りの人との良好な関係」を築いていけると確信している。 私はこれからも「人とのつながり」を大切に、仕事が好きになるような環境を仲間と一緒に作り広めていきたい。