【 厚生労働省 人材開発統括官賞 】

YouTubeの仕事は私の誇り
奈良県  奥田歩実 22歳


 今、私はYouTubeの仕事をしています。「現代っ子だなぁ」、「YouTubeが仕事とは認められない」そんな声をあげたくなる気持ちもわかります。なので、言い方を変えます。今、私は聴覚障がい者の方たちに向けてYouTubeの動画に字幕を付ける仕事をしています。どうでしょう。YouTubeの仕事も悪くないなぁなんて思い始めませんか?
 
 私はYouTubeの仕事が好きです。なぜなら、字幕を付ける作業は在宅でできるからです。また、納期に間に合うのならば、いつ仕事をしてもいいのです。昼過ぎや、夕方から仕事を始める日もあります。「やっぱり、現代っ子か」、「やっぱり、立派な仕事とは言えない」。この話を聞いて、少しだけ、ほんの少しだけ思った人もいると思います。なので、こう付け加えます。私は、起立性調節障がいと発達障がいを持っています。毎日、朝早くに職場へ行って8時間働くことが難しいです。そんな障がい者の私が、YouTubeの仕事に出会い、誰かの役に立っています。働き方が自由なYouTubeの仕事は私でも誰かの役に立てる魔法の仕事です。
 
 「誰かの役に立つ大人になりなさい」。子供の頃こんなことを言われた人は多いはずです。もちろん私もこう言われて育ちました。人の役に立つ仕事に就きたいと思っていました。医療、福祉、通訳など、子供ながらに人の役に立つ職業を将来の夢に掲げていました。しかし、小学生の頃から、勉強はできるのにノートの文字がぐちゃぐちゃ。毎日、朝起きられなくて遅刻の常連。どうしてか、みんなと同じことができませんでした。誰かの役に立ちたいのに、私はいつも周りの大人や友達たちのサポートが必要でした。どんなに立派な夢を語っても、大人たちからは、「まず、みんなと同じことをできるようになろうね」と言われていました。
 
 22歳になった今、私は相変わらずです。文字はうまく書けません。朝は起きられません。みんなと同じことができません。それでも、子供の頃なりたかった、“誰かの役に立つ大人”になれていると思います。文字は書けなくたって、タイピング速度は誰にも負けません。朝起きられなくたって作業時間は確保できます。
 
 苦手なこと、できないことが多い私は、サポートを受けるプロだと思います。業務の中のミスが生まれそうなポイントや、もっとほかの手段を使うとミスが減りそうなポイントがよくわかります。そんなときの“あったらいいな”に気づくプロだと思います。なので、働きやすくするためにどんどんツールを活用したり、求めているツールがない場合や予算が厳しい場合は自分で作ったりします。今まで私が受けてきたサポートを、今度は私が困っている誰かに届ける番だと感じています。
 
 このエッセイを読んだ方の周りに、もし私のような“みんなと同じ働き方”に難しさを感じている方がいれば、ぜひ「YouTubeの動画に字幕を付ける仕事もあるんだよ」と教えてあげてください。人は、自分の知っている職業しか将来の選択しにありません。その仕事を知らないということは、自分の活躍できるかもしれない場所を知らないということです。どんな人でも、活躍できる場所、やりがいを感じられる場所はあるはずです。
 
 私はこれから、YouTubeの仕事を通じて、字幕を作ることだけではなく、すべての人が働きやすい環境も作っていこうと思います。

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