【 奨 励 賞 】

【テーマ:仕事探しを通じて気づいたこと】
母親という就業規則
東京都  佐々木唯ディアス  33歳

今年、社会復帰をした私は、とんでもないブラック企業で働いたことに気づかされる。そのブラック企業の就業規則はこうだ。

「顧客(0歳の次女)のニーズ(母乳)にコミット(授乳)し、迅速にトラブル(大泣き)に対応し、クーム処理(授乳)をするかで日々の仕事(家事)の効率化につながる。また、お得意様(2歳の長女)の理不尽なクレーム(イヤイヤ期の大暴れ)にも気を配り、時には賄賂(アンパンマン菓子)をちらつかせ柔軟に対応。新入社員(夫)には、報連相(夕食が必要か否か・何時に帰宅か)を徹底させ、的確に PDCA サイクルで業務を回し(家事の効率化)一日も早く独り立ち(家事をしながら育児できるスキル)してもらうことが大切。また、どんなトラブル(街中での大泣き、排泄物)に対応できるように、カバンには「念のため」という名の必需品(オムツ、おやつ、おやつ、おやつ)を詰めておく。新規のお客様(0歳の娘)には、24時間体制でフレキシブル対応(添い乳)を徹底し、より安心安全安眠を従業員(家族全員)に提供できるよう努力を怠らない。お給料は手渡し(笑顔、ありがとう)で不定期に給付される。また、ボーナスはその日の出来高(二人同時にお昼寝するか否か)で決まり、支給は日々変動(時間で支給)。」

この上に、昨年は就職活動・保育園申請活動(保活)・スペイン人の夫の永住権申請が重なり私の頭は毎日お祭り騒ぎだった。こんな状況下の中で毎日をこなしている反面、これならどんな企業でも働ける!という自信につながった。

しかし、育児の合間を縫って、就職活動を始めた私は完全に自信を失っていた。

2年間の主婦生活の中で、常に志を持って毎週1冊ビジネス書を読み、仕事のイメージトレーニングをし、英語の勉強もしてきた。外資系の企業に就活した私は深夜のテレビ電話面接のため家族を起こさないようスーツに袖を通すこともしばしばあった。

結果は、惨敗だった。どんなにビジネス書を読んでいても、ビジネス英語を実際に使うことからは完全に離れてしまっていたのが現実だった。

「これでもか」というほど、自信を喪失した私。夢に描いていた「バリバリ働くかっこいいお母さん」からは完全に遠い場所にポツンと取り残されてしまった。溜まりに溜まった思いを、肩を揺らして泣きながら夫にぶちまけた。すると夫はこう声をかけてくれた。

「あなたに足りないのは、実力ではなく、時間です。」

そしてこう続けた。

「2人の子供を育てて、週1冊本を読んで、ご飯も美味しくて、家もいつも綺麗で、その上就職活動と保活もして僕に永住権のチャンスもくれた。そんな素晴らしい人、僕はあなたの他に知らない。心の底からあなたを尊敬しています。あなたに足りないのは、実力じゃなく、時間です。これからゆっくり好きな仕事を見つけたらいいよ。」

夫はこの2年間、私のことをずっと見てくれていた。

「スッ」

肩の荷が下りる音が聞こえた。

その日をきっかけに、私はリラックスして就活に取り組むことができた。その後受けた出版社では、面接を受けたその日に「ぜひ、あなたと働きたい。」と勿体無いお言葉をくださった。

現在の職場では、持ち前のコミュニケーション能力が手伝ったのか「なんでも面白い関西の女が入社したらしい」と噂になる程みんなが温かく迎えてくれた。今、とても楽しく働いている。仕事には、ビジネス書で学んだ通り30分以上早く出勤し、英語を勉強したり、仕事に入る前のプランを立ててから仕事に取り掛かる。ちょっと前まではブラック企業な就業規則だと思っていた母親業も、今ではより癒しの時間になった。仕事も母親もいまはどちらも「息抜き」に変わり、強く「生き抜く」力が身についてきたように思う。まだまだ半人前の私だが、愛する家族のためになんでもできそうな気がしてきた平成最後の春になった。

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