【 奨 励 賞 】

【テーマ:現場からのチャレンジと提言】
AIに負けない人生を選ぶ
神奈川県  難 波 繁 之  62歳

ラスベガスのカジノやバー、ホテルで働く従業員たちがストライキをおこなった。それは、「職場にロボットやAIを導入するな!」というもの。ロボットやAI(人工知能)の導入で自分たちの職が奪われることに対する抗議デモである。実際に、カジノのディーラーやバーテンダー、ホテルでのロボットフロン係などがニュースやテレビで話題になり、訪問する客が増えているのが原因である。

日本でも、ホテルのフロントがアンドロイドや無人の24時間稼働している工場、メガバンクでの行員の大幅減員などが話題になっており、今後はAI革命で60%以上の職が無くなるという予測もおよそ嘘では片づけられない状況である。

私は学校で教員として勤務しているが、教育現場でもAIの影響が出始めている。一番顕著なのが教育関連会社からのパソコンでおこなう教材(電子教材)の配信である。初めは受講している生徒たちが全員同じ問題をおこなうが、問題が進んでいくと、生徒個々によって得意分野・不得意分野が出てくる。数学で例えれば「計算問題は得意だが、図形問題は不得意」という具合である。そこでAIが生徒個々の得意・不得意を判断して、得意分野の問題を減じ、不得意分野の問題を増加させる。また、不得意分野の動画(有名な予備校の講師の授業動画)まで用意して、不得意分野の克服を狙う。

そこまでAI化が進むと、今後は教師の存在意義が問われてくる。比較的リーズナブルな価格で、一流講師陣の授業が受講でき、自分にオーダーされた問題が配信されるようになると、生徒たちも「勉強はパソコン1台あればできるのでは」と思うようになる。実際に、本校ではある電子教材を使ったことで、勉強への興味関心が高まりを見せるとともに、成績の大幅な向上も実現した。この実例では、将来的には教員の仕事は一部になり、教科指導はもっぱら電子教材で済むこととなる。そのことは学校における教員数の大幅な減少に繋がるということである。

ここまでだと、世界の全労働者の未来はすべてロボットやAIにその職を奪われてしまう、というストーリーになるのだが、意識を変革すれば私たちでもロボットやAIの脅威を跳ね除け、未来社会における「必要とされる人間」として社会に認知される。

それは、ロボットやAIにはできない職業がたくさんあるからだ。ロボットやAIは決まった仕事(定型業務)が得意である。例を挙げれば、経理やデータの処理のような事務仕事である。今まで「事務職」と言われていた職業がそれに当たる。また、同じものを大量に作る製造業も同じである。それに引き換え、一つ一つが異なる業務(非定型業務)はロボットやAIには不得意分野である。例を挙げれば、私が勤務している学校でも、生徒の特性や行動、考え方は一人一人異なる。進路や友人との関係、様々な悩みは多種多様である。その生徒たちと本気で向き合い、悩みや苦しみを共有しながら適切なアドバイスができるのは人間の教員だけである。

他の業種でも、看護師や介護士、保育士といわれるような様々な人たちに関わる職業。商品の開発やクリエイティブな作品を創造するクリエイターなども、人間でなければできない職業である。また、ロボットがフロントやルームサービスをおこなうホテルを紹介したが、最近では、「ロボットではなく人間と話したい、関わりたい」という観光客が増えているという。あるホテルチェーンでは、従業員が自ら、夕食時に地元の美味しいレストランや居酒屋にお客を案内したり、一緒にカラオケを楽しんだりするサービスが人気だと聞いている。

私の学校でも、人気のある教員は、生徒との会話や関係を大切にして、相談やカウンセリングに活躍している。人間と人間の関係を壊すのも、お互いの心を通わせ良好な関係を築くのも人間の行動である。ロボットやAIに負けない人生を送るのも人間の心の持ち方ひとつではないかと思う。

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