【 奨 励 賞 】

【テーマ:仕事を通じて、かなえたい夢】
九十七歳の夢
兵庫県  坂 本 ユミ子  61歳

先日、テレビを見ていたときのことだ。

「今、ほしいものは何ですか?」

介護施設でアナウンサーが97歳の女性に質問した。女性はためらうことなく答えた。

「仕事。仕事がほしい。仕事がしたい」

私は驚いた。アナウンサーもびっくりしていた。施設で介護を受けている車椅子生活の彼女が仕事をしたいなんて・・・。

「どんな仕事がしたいですか?」

アナウンサーが聞いた。彼女は両手を動かしながら笑顔で「お裁縫」。彼女はずっと専業主婦で働いたことが無い。一度働いてみたかった。働いて自分でお金を稼ぐのが夢だった。97歳とは思えないしっかりとした口調で彼女は語った。彼女はお裁縫が好きなのだろう。

好きなことでお金を稼ぐ─だれもが夢に見ることだ。


私は自宅で94歳の義母を介護している。

1995年1月17日阪神大震災─義父母の家は全壊した。義父母が結婚以来50年住んでいた家だった。前年の夏、リフォームしたばかりだった。1年後、家を再建し義父母との同居が始まった。

3年前、義父が92歳で亡くなってから義母は急に弱ってしまった。何とか自力でトイレへ行けるし、食べることも出来るが、一日のほとんどを寝て過ごしている。このままでは寝たきりになるのも近いだろう。義母は時おり涙を浮かべて言う。

「早く死にたい。みんなにこれ以上迷惑かけたくない」


先日、ケアマネジャーさんと義母の今後について相談した。ケアマネさんは家に来る度に言う。

「お母様は幸せですよ。ご家族といっしょで。介護施設に入所されている方はみんな、家に帰りたがっています」

家にいることが義母の幸せ─なのは分かっているけれど、この先寝たきりになった義母を家で介護する自信がない。私は仕事をしている。夫は足が不自由だ。京都に住んでいる義姉は私より一回り年上で腰痛や膝痛を抱えている。一人っ子の一人娘は離れて暮らしている。

日帰り入浴もヘルパーさんに来てもらうのも、昔気質の義母は嫌がるので、私が義母とお風呂に入っているが、寝たきりになったら無理だろう。

「今は何とか家で介護出来ますが、寝たきりになったら施設にお世話になるしかないですよね」

ケアマネさんに言うと、

「訪問介護やデイケアを利用すれば家でも介護できると思います。お風呂も出張風呂を利用すれば、家に来て入れてくれます」

寝たきりになったら義母にそうしてもらうしかないだろう。

「お母様は無理ですが、寝たきりでも一人暮らしされている方もいらっしゃいます」

そんなことが可能なのか?詳しく聞いてみた。ケアマネさんの担当に二人いるそうだ。一人は87歳の男性。彼は70代のとき2度の脳梗塞で下半身麻痺になり寝たきりになった。もう一人は88歳の女性。足

を骨折して寝たきりになった。

「お二人とも、家族に迷惑掛けたくない。でも、施設に入所したくない。不自由な体になっても自由に暮らしたいそうです」

毎日の食事やオムツの交換は1日3回の訪問介護。お風呂は週に2回の日帰り入浴を利用しているそうだ。何かあったときは、携帯電話のボタンを押せば介護施設の職員が来てくれる。医師も定期的に訪問するそうだ。

「お二人とも仕事されています」

男性はパソコンを利用して仕事をしている。女性は内職の仕事をしている。僅かでも仕事をして収入を得ることが二人の生きがいになっているそうだ。


私は昨年3月に定年退職する予定だったが、現在も同じ会社で働き続けている。昨年から定年が60歳から65歳に延長された。年金だけではとても暮らせない。老後の貯金は足りない。家のローンも残っている。定年後も求職して働くつもりだったので、働き続けることができてよかった。

私は働くことが好き。これからの人生、ずっと仕事を続けたい。体が動かなくなっても、寝たきりになっても、ベッドの上で何か自分に出来る仕事をしていたい─それが私の夢だ。

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