【 奨 励 賞 】

【テーマ:現場からのチャレンジと提言】
高齢者から学んだこと、若者に伝えたいこと
北海道  大 澤 智 恵  45歳

私は高齢者のデイサービスで働いています。利用者の方々の約半数は認知症を患っていますが、学ぶことはたくさんあります。

その中でも特に印象に残ったことは、若い皆さんへ橋渡ししてお伝えすべきだと思ったのでご紹介します。

まず一つ目は、「仕事に対して真摯に取り組むこと」です。小学校の先生をされていた90代の方のお話しです。

「子どもはもともと真っ直ぐ育つものなの。曲がったり、道にそれてしまうのは大人の教え方が悪いから。こちら側の問題なの」と教えてくれました。この方は短期記憶障害があり、ご飯を食べたことも忘れてしまいますが、何事にも丁寧に真面目に取組んで下さいます。

もう一つは「仕事を楽しむこと」です。長年農家をされていて、今でも朝に畑仕事をした後デイサービスに来られる方のお話しです。

「人参出したらいい値段ついて面白かったよ。ブロッコリーも昔はまだ珍しかったけど、土だとか肥料だとかいろいろ研究して上手く育った時は嬉しいもんだよ。ずい分苦労したけどね。今朝はアスパラ採ってこづかい稼ぎしてきたさ。晩にビール飲むのが楽しみなんだ」といつも楽しそうに話されています。お嫁さんとの関係に悩むこともありますが、お話し好きで元気な方です。

最後は「誇りを持って働くこと」です。トラックの運転手をしていた方のお話しです。

「あの頃は稼いだなあ。百キロ近い荷物積み降ろしして。息子も娘も学校出してやったんだ」と自慢げに語る80代の方は腰や膝を悪くして手術をした痕があります。それだけ懸命に働いてきた勲章なんだと思います。

どの利用者の方も働いて家族の生活を支えてきたこと、子どもたちを育て上げてきたことなど誇りを持っていらっしゃいます。

介護業界は厳しいといわれていますが、このように利用者の皆さんのお話しを聞くと、今はとても恵まれた時代なんだと思います。

提言というほど立派なことではありませんが、私はコミュニケーションが苦手な人ほど介護業界をおすすめしたいのです。

若い皆さんの中にはコミュニケーションが苦手な方もいると思います。私も10代から20代の頃はそうでした。人と目を合わせることにさえ恐怖を感じていたほどですが、祖母の介護をしていたので興味を持ち、転職しました。

介護の仕事は一人では決してできません。私が意識しているのは人として当たり前のことをすることです。利用者に対しては自分の祖父母に接するように大切にする。一緒に働くスタッフとはあいさつや声掛けをこまめにしたり、フォローを心掛けることなどです。

私の欠点は仕事が遅いことと忘れっぽいことです。急いだりメモを取ったり努力はしていますが、それでも不充分な所は誰かがフォローしてくれるので感謝しています。

仕事は精神的にも肉体的にも大変ですがやりがいはあります。認知症の方に顔を覚えてもらえるととても嬉しいのです。また会話だけがコミュニケーションとは限らず、入浴介助をしたり一緒に行事を楽しんだりとさまざまな方法があります。

私のように転職までしなくても、ちょっとボランティアをしてみたり、まだ働いていない方は身近な人にちょっとしたあいさつをすることから始めてみるのもいいと思います。

「ありがとうございます」「お疲れ様です」など気持ちを込めて一言添えるだけでも続けていけばいつの間にか視野が広がっていると思います。皆さんの参考になれば幸いです。

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