【 佳 作 】
「長時間残業を減らすための新規対策を話し合いたい。新設備やIT技術の導入拡大は、他社も同様に力を入れている。我々は、さらに全社員が気持ちを一つにして取り組めるような活動に挑戦したい。」私は、製造工場の管理者の一人として、挑戦活動の主旨を発言させていただいた。出席者は、「何を言いたいのだろう?」という表情であったが、説明を続けた。
「現在、全国的に叫ばれている『働き方改革』の重点課題の一つである『長時間残業を減らす』活動を皆さん自身が喜んで実行したくなるものにしたい。合わせて、出勤が楽しくなるような活動にしたい。」
その場には、20〜60代の幅広い年齢層の社員が出席していた。できるだけ、多くの人の意見を聞きたかったので、数回に渡って意見交換をした。代表的な発言例を紹介する。
まず、お子さんが誕生したばかりの若手社員が、真剣な顔で発言した。
「長時間残業が減れば、子育てにも協力できるので大賛成です。一人ひとりが、スキルアップの挑戦目標も立てて生産性を上げ、残業を減らしたい。」
次に、小・中学校の子供さんを一生懸命に育て中の中堅社員が発言した。
「正直、残業が減ると手取り給与も減るので、ある程度の残業はやりたい。一方、家族のための時間も確保したい。両立できる活動であれば、喜んで参加したい。」
60代のベテラン社員も落ち着いた口調で発言してくれた。
「長時間残業が減れば、孫達とも会えるので嬉しい。しかし、仕事優先で残業がある時は、家族を大切にする時間を確保できなくなっても仕方ないと思っている。」
多くの意見を参考にしながら、私は、次のような提案をした。
「皆さんが、仕事も家族も大切にしたいと考えていることがよくわかりました。今は仕事優先になっていますね。提案ですが、『家族優先』にしてみませんか。」
工場の皆さんは、「そんなことは、無理だろう」という雰囲気であった。
「『家族大切活動』をやってみましょう。具体的には、家族の大切な行事がある時には、残業せずに帰る。また、予め年休を取得して家族大切を有言実行することを皆で了解し合うということです。さらに、家族の育児や病気発生のために対応せざるを得ない時には、その対応を優先するということです。」
すぐに、中堅社員から質問があった。
「そんなことを容認していたら、工場の業績が下がりませんか?」
「一時的には下がることもありますが、皆が心を一つにして継続すれば、業績も向上すると期待します。」
ベテラン社員からも質問があった。
「何故、そういう活動が業績向上につながるのですか?収入面はどうですか?」
非常に重要なポイントなので、丁寧に回答させていただいた。
「喜怒哀楽の共有化で、ご家族内の対話も増えると思います。その結果、皆さんも笑顔で楽しく出勤され、業務中に悩むことなく仕事に取り組まれて、生産性向上にもつながると考えています。生産性向上で社の収益も良くなるので、残業が減っても皆さんの収入は増えると期待しています。」
独身者も含め、工場の皆さんの表情が、安堵感と期待感で明るくなってきた。
以上のような経緯で開始した「家族大切活動」は、当初は不慣れのために挫折しそうな時もあった。しかし、粘り強く社内対話を継続しながら実行したお陰で、徐々に改善効果が顕在化して来た。ご家族からも、笑顔や対話が増えたとの声が聞かれるようになった。さらに、工場内の対話と相互を思い合う気持ちで職場の纏まり力もアップし、安全成績も向上した。
「家族大切活動」は、長時間残業を減らすだけでなく、これからの時代に益々必要な「働く人の心の豊かさ向上」にも貢献すると考えている。多くの会社において、類似活動が広まることを期待したい。