【 奨 励 賞 】

【テーマ:さまざまな働き方をめぐる、わたしの提言】
空白期間におびえるな
東京都 川 島 れ ん 31歳

ついこの間、会社を辞めた。「数ヶ月先に何してるかなんて、誰にもわかんないね~」なんて冗談で言 う事はよくあったが、入社して丸3年になったばかりのこの時期に、まさか自分がこういう決断をする とはつゆほどにも思っていなかった。

私が退職すると知って、社内外問わず多くの人が声を掛けてくれた。「貴方の仕事は評判が良かったんだよ」「いなくなったら困る」...そんな評価、在職中にもっと言ってくれていたら、より自信を持って仕事できていたかもなぁ、なんて思いながら。本当に辞めちゃうんですか、と緑茶ハイを飲みながらまっすぐこちらを見つめてきた後輩の眼差しが、忘れられない。

仕事自体が辛いと思った事はなかった。しかし、長く続けてきたプロジェクトにおいて結果が出せず、 とある事情でそれを終了せざるを得なくなった時は、流石にこたえた。これまでの時間、予算、メンバーがかけてきた情熱、力を貸してくれた人達の顔。普段はあまり近付きたくない上司の「責任をとって辞 めたい」という言葉に「私もです」と思わず同調してしまった程だった。その時は結局誰も辞めなかっ たものの、また新たな目標に向かっていくモチベーションを保つのが非常に難しかった。仕事は結果が 全て。どんなに日頃の評価が高くても、結果を出さなければ「そこまでの人」。すなわち、イマイチとい う事。結果を出せない事は会社の損害だという事以外にも、自分自身に自信が持てなくなったりこれま でやってきた事がはたして正しかったのか(結果が出なかったのだから間違っている部分があるとはいえ)信じられなくなり、だんだんと行き詰まって負のループに陥ってしまう事を、強く実感していた。

思えば社会人になって10年あまり、ほぼ休まずに働いた。幾日かの徹夜も凄まじい連勤も、それから 仕事が夢に出てくる程のハードワークも経験して、久々の休みにゆっくり洗濯物を干す、という何気な い行為に感動した事さえあった。そんな無我夢中で走る日々を一旦やめて、事実上の無職となった私は、 きっと世間的には仕事もしないでフラフラしているだらしない人間という事になるのだろう。遠い実家 に暮らす心配性の母は、案の定「どうすんのさアンタ」と眉をひそめていた。

しかし、良かった事もある。全国各地に住む、趣味を通じて知り合った友人に会いに行ったり、平日 の静かな美術館や展示会に足を運んだり、週に何本も映画を観たり。自炊をする時間も増えた。仕事を していたら、面倒くさがりの私は忙しさにかまけてやらなかったであろう事を今、たくさん経験している。

全く不安がない訳ではない。社会復帰できるのか?自分に何ができるのか?...そう弱気になりそうな 時には、「何十年と生きる人生の中の、ほんの数ヶ月の空白期間にビビるなよ」と頭の中の楽観的な私が 笑うのだ。焦らず自分にできる事をじっくりと探す為の時間をもらったんだ、と感じると同時に、今し かできない経験をたくさんする事で、これら全てが自分自身の血となり肉となるんだ、という事に強く気付かされる毎日だ。

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