【 奨 励 賞 】

【テーマ:仕事をしたり、仕事を探したりして気づいたこと】
希望を見つけて
福岡県 朝 野 光 37歳

イタリア映画の名作『自転車泥棒』でポスター貼りの仕事を得て喜ぶ父親が商売道具を盗まれる。ラ ストシーンに「戦争はこんなにも辛い状況を生むのだ」と感じたのと同時に仕事がある有難味を思い出 しました。

今は時代が違います。日本では仕事が溢れ、人手不足な職業だってあります。しかしその職業の選択は 平等ではありません。日本の貧富の差は年々残酷になり、教育の差、それに伴い職業の差、収入の差が あります。向上心が育たないのは環境が最大の原因だという現実を私は目の当たりにしてきました。し かし私が今から仕事を始める世代、それよりももっと前の段階の世代に伝えたい事は、日本ではどんな 状況でも自分次第で運命は変えられるという事です。重要なのはその事になるべく早く気が付き行動す る事です。できればそれは家庭ではなく教育現場で教えられるべきです。

学校での酷いイジメを受けた経験がある人や、進学出来ない状況の家庭で育った人は教師にはならな いでしょう。人は経験のない事に関して想像をしにくいものです。それでも教師には生徒を見捨てずに いてもらいたい。彼ら一人一人が希望なのだから。

私は高校卒業と同時に1年間移民が多く働く工場に勤務しました。沢山の出稼ぎ外国人の友人ができ、 彼らが将来への希望が持てるようになるには、どうすれば良いかを真剣に考えた1年間でした。もし彼 ら全員が将来に希望が持てたら、もし生き生き働く事が出来たら彼らは驚くほど仕事に意欲を見せ、能 力を発揮出来るのです。

私はある日系ブラジル人の女性と親しくなりました。彼女は2人の小学生の子供達を日本へ呼び寄せ 一緒に暮らしました。日本語が出来ない、特別なスキルもない、キャリアもない、しかし彼女には希望 がありました。子供にいい教育を与え、彼らには日本で高収入の職に就いてもらいたいという希望です。

彼女は必死でした。その希望が力となり、誰よりも働き、誰よりも正確な仕事が出来るようになり、チー ムリーダーになりました。

しかし現実は残酷で日本の大学の学費は高過ぎたのです。奨学金という借金を子供に背負わせたくな い、それが彼女の選択でした。結局子供達は進学を諦め、定時制の高校を卒業すると彼女と同じ工場で 働く事になったのです。彼女のような移民家庭は沢山存在します。20年近くも前から。

最近、奨学金返済が原因で自己破産や、将来を悲観して自殺する人もいます。日本の希望は何に向け れば良いのでしょうか?良い環境で育ち、経済的なストレスなく進学の選択が出来、高等教育を受ける 事が出来た人間だけが希望が持て、職業を選択出来、良い生活を送る。長い間、日本が変わらなかった 現実です。

もしどんな状況に生まれようと大学までが義務教育で、誰もが将来に希望が持てたら、どんなに努力 する子供が増える事でしょうか。私はこの事を考えずにはいられません。

私も恵まれているとは程遠い環境の中で育ちました。「将来何になりたいか、どのような仕事がした いか」親に聞かれた事はありません。早い段階で進学を諦め、バイト漬けの高校時代を得て就職後はフ ルタイムで働き高校の奨学金を返しながら、夜間の専門学校へ行き、家族には少しの仕送りをしました。

転職後30代になった今も通信大学の学費を払いながらなんとか自活しています。しかし、もし私と同じ ような状況の人がいたら、どうか自分の環境や能力を決めつけないでほしい。

働き方が多様化している現在で、職業の選択の幅は広がりました。自分が得意な事、出来ることを見 つけて、少しずつで良いから挑戦してほしい。どんな職業でも誰かの何かの役に立っている事を忘れな いで、やりがいを見つける事も大切です。恵まれた環境にいても目標が持てなかったり、夢破れたり、 自分の努力とは関係なく病気や事故に遭う事だってあります。それでも目標を見つけ、道は常にあると、 誰もが希望が持てる国に日本がなる事を私は願っています。

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