【佳作】

【テーマ:さまざまな働き方をめぐる、わたしの提言】
あなたらしい働き方こそがキャリアだ
東京都 大 井 賢 一 47歳

社会が抱える難しい課題には行政が対応してきたが、増え続ける債務負担や伸び悩む税収に加え、社 会ニーズの多様化が進んだことで、それは難しくなっている。近年、こうした社会の課題解決に取り組 むNPOが存在感を増している。1998年の特定非営利活動促進法の施行以来、2018年5月末までに認証 法人数は20年間で51,829法人を超えた。株式会社や有限会社に比べれば少数に過ぎないが、それらの営 利団体数の減少が続くなかで、その伸びは注目に値する。

私は「誰もが一人でがんと向き合わないために」をキャッチフレーズに、がんになっても自分らしく 生きられる社会づくりを目指すNPOで働いている。2013年にオックスフォード大学のミッシェル・オズボーン准教授らが著した論文に書かれた「10〜20年以内に労働人口の47%が機械に代替されるリスク がある」という主題によって人工知能脅威論が社会を襲った。しかし人工知能にできないことは意味を 汲み取ることだ。がんと診断されると人は孤独感に襲われ、一人で不安に向き合わねばと苦悩する。私 たちの活動は彼らの抱える苦悩の意味を汲み取り、受け止め、寄り添うことで人工知能にはできない。

かつて創業者たちは、より良い社会をめざして出資して会社を起業、所有し、経営もした。今日、会社 は株主という出資者から期待を集める株式会社へと成熟した。株式会社は余剰資本を効率的に回転させることに長けたシステムであるが、創業者の思いを他所に株主主権主義に支配され、株主によって所有 され、株主によって雇われた経営者によって経営される。経営者は株主の顔色を伺うことに熱心で、よ り良い社会をめざす事業に対しての責任感は希薄になっている。

NPOはNon-Profit Organizationの略で非営利団体という意味だ。この “非営利” という文字から NPOが提供するサービスは無料やボランティア、安価で提供すると誤解されることが多い。またNP Oはボランティアの延長線上にあり、時間的・金銭的に余裕のある人たちが働く場所といったイメージ が強く、キャリアとして捉えられることはなかった。1980年代、米国では株主の顔色を伺う株式会社よ りもより良い社会づくりを志す学生たちの受け皿になったのがNPOだった。2018年1月31日の参議院 予算委員会で山本香苗参議院議員は、ものづくり補助金の対象が中小企業・小規模事業者に限られてい ることを指摘、なぜNPOが除外されているのかと質した。これに世耕弘成経済産業大臣は「NPOは よく誤解をされますが、利益をあげていいわけです。」との答弁をした。NPOは事業で利益を生むこと を禁止されていない。その利益に関して株式会社のように株主、NPOの場合は寄付者に分配をしては いけないという意味で非営利団体と表される。

キャリアという言葉は世間で頻繁に使われ、一般に仕事・経歴・就職・出世などのイメージで使われることが多い。厚生労働省はキャリアを就職・出世・現在の仕事といった点や結果を指す言葉ではなく、働くことに関わる「継続的なプロセス」と、働くことにまつわる「生き方」として定義することを提唱 している。

私たちは誰もが社会で何らかの役割を担う歯車の一つだ。しかし、キャリアとはあなた自身でオリジナルなものだ。あなたが思い描き行動したすべてが、足跡として「あなたのキャリア」になっていく。株式会社で働き株主を満足させる役割を果たしつつ社会変革をめざす歯車になるも、私のようにNPOで 働き専ら社会変革をめざす歯車になるも、そのキャリアの選択はあなた次第だ。いかにあなたらしく主 体的に納得できる歯車として人生を送るかというライフデザインの視点に立ったキャリアを積み上げて いくことが今の時代を生き抜く術かもしれない。

 

参考文献

C.B.Frey&M.A.Osborne(2013)“TheFutureofEmployment:HowSusceptibleareJobsto Computerisation ?”(http://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/publications/view/1314) 厚生労働省職業能力開発局『キャリア形成を支援する労働市場政策研究会』報告書(平成14年7月31日)

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