【 努力賞 】
【テーマ:多様な働き方への提言】
女性のハタラキカタ
東京都  夕 日 あかね  32歳

「おっぱいあるから駄目だわ」男性指導員二人が手で胸の前にお椀のような形を作りあって笑いあっていた。私は真剣に列車運転士になるための訓練を受けているつもりだった。指導員も真剣に教えてくれていると信じていた。その時までは。

 区所初の女性運転士。会社は私に素晴らしい機会を与えてくれた。私は張り切っていた。そもそも鉄道会社に就職したのは普通の事務職だけでなく運転士という職も体験できるということが大きかった。就職活動中、最終面接手前で先輩社員から「総合職の事務系の人には現場の体験、つまり駅員・車掌・運転士をやってもらうことになっております。」と説明を受けたときに、嫌そうな表情をした女性もいたが、私の心は踊った。

運転士になるためには筆記の国家試験にパスした後、実技の国家試験があり操縦のみならず出区点検など実技の科目にもパスしなければならない。操縦は担当の先輩社員が師としてついて半年もの長い間マンツーマンで指導してくれる。出区点検などはそれとは別に夏に集中して2名の担当者から訓練を受ける。冒頭の出来事は夏の訓練中に起きた。

 彼ら二人は、総合職というものに元々嫌悪を示していたらしい。そして、女性に限らず男性総合職の運転士見習いが夏の試験のために彼らの訓練を受けに預けられるとこぞって嫌がらせのようなことをしていたそうだ。しかも、女性運転士を養成することが気にくわなかったらしい。総合職で運転士見習いを経験した男性の先輩が教えてくれた。ただ、あの真剣に取り組む訓練のなかで女性にそういう言葉をむけるとは思わなかったと先輩は驚いていた。私も。

が、私の動揺にはお構いなしに訓練は続く。7月8月の真昼間に線路上全速力で走りつつ、点検項目を確認していく。熱中症で倒れたことがあった。共に訓練を受けていた男性の同期に向かって「こいつ彼氏いなくて寂しい、だから抱いてやれよ。元気になるべよ」「こんな総合職の女なんかにハンドルとられてたまるかよ。なめるなよ。」意識が遠のくなか聞こえてきた。

ところで、運転士見習いというのは立場が弱い。免許をとる前に指導員に逆らったりしたら行儀が悪いということで師である運転操縦を教えてくれた先輩にまで迷惑がかかるかもしれない。何より告げ口したことで報復されるような気がした。いじめられている子がまわりの大人にいじめられていると言えない理由というのが初めてわかった。女子ロッカーでこっそり泣いた。200人ちかく乗務員が所属する区所で女性運転士は私一人だけだったが、女性車掌が20名ほどいた。慰めてもらった。ここで負けたら彼らの思うつぼだ。必ず運転士になる。

そして、私は運転士になった。支えてくださった方々のおかげで実技の国家試験も、区所独自で行う一人で乗務できるかどうかを見極める試験も合格できた。だが、喜びもつかの間。夏の訓練担当の片方の男性に呼び出された。「あなたが何度も熱中症で倒れたせいでみんな介護しなくてはならなかった。我々の仕事は訓練をすることなのにあなたの介護に時間をとられて仕事ができなかった。なんでこんな子よこしたのかね。あーあ女性運転士誕生オメデトウ。」

 数年前の思い出したくない事実を書いてお伝えしたいことはただひとつである。女性が同等に働くことについて男性側も理解してほしいということだ。

「女性のパイオニアは男性社会に合わせるために相当の我慢をされてきた。でも我々の我慢にも限界があることを伝えていかないと変わらない。言葉で伝わらないなら私は行動で示す。妹たちのために会社を辞める。」一つ上の先輩の言葉が浮かぶ。

日本企業は伝統的に男性のものだった。伝統的企業風土を一新するのは難しい。ソーシャルネットワークを覗くとたくさんの女性がOLを辞め起業して輝いている。無理して男社会に合わせる以外の方法を見つけるのもまた一手なのかもしれない。

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