【 努力賞 】
【テーマ:多様な働き方への提言】
仕事の選択は、未来の選択
宮崎県  渡 辺 真理子  31歳

授乳を終えて時計を見ると、10時55分を指していた。ちょうど会議5分前。私は部屋着の上にカーディガンを羽織る。横に転がる生後6ヶ月の娘は、満足そうにアウーと笑った。こたつ机に置いたパソコンから、呼び出し音が鳴る。音量確認。カメラ確認。よし。クリックして会議に臨む。「おはようございます!」画面に映るのは三人。一人は滋賀の事務所、一人は東京のカフェ、一人は海外。私は宮崎の自宅から。

 このメンバーは、Web上の新サービスを作り上げる制作部隊だ。滋賀の代表兼発案者の社長は、私の前職の先輩。他の二人は、サイト運営を担当するWebデザイナーと、ロゴや印刷物を担当するベネズエラ人のデザイナーだ。私はディレクター兼コピーライター。住む場所も国籍も超えた、少数精鋭のメンバーだ。

普段は専用のグループチャットで意見やデータをやり取りし、週1回こうしてスカイプ会議を行っている。その他、別件でも制作業務が進行中だ。私は長男が幼稚園に通う時間帯に仕事をし、夕方からは家事と育児がメインの専業主婦に変身する。今の仕事スタイルは、私の中で理想に近い。「育児もしたいが仕事もしたい、社会の役に立ちたい」という、長男を授かって以来抱き続けてきた想いを、程よいバランスで実現できている。けれども、苦もなくこの状況が手に入った訳では決してない。

 主人の転勤で引っ越しと退職が決まり、フリーランスとなったのが二年前。なったはいいが仕事がない。そこでネットを介して仕事をするクラウドソーシングと呼ばれるサイトに登録した。「在宅ワークで手軽に受注」「副業に最適」……甘い言葉が並んでいる。行けば確かに仕事はあった。しかし、現実に愕然とした。そこには、キャリアを積んだプロとしては、あまりにも安い単価の案件ばかりが並んでいた。退職すれば収入が不安定になるのは重々承知していたが、これほどまでとは。けれど「自宅で仕事ができる」という利点を鑑みると仕方がない……と、幾つか仕事をこなしてみた。しかし、一日中パソコンに張り付いても成果が上がらない。また内容も、大手メーカーの業務や省庁からの依頼がある一方で、虚偽のレビュー作成、迷惑メールの大量執筆、詐欺の片棒を担ぐような仕事も平然とある。それを引き受ける登録者がいて、次の日には業務が完了している。「仕事があるだけありがたい」それは確かにそうだ。しかし社会の役に立つどころか、一歩間違えれば社会の迷惑に荷担しかねない世界がそこにあった。

 何のために仕事をするのか。お金か、社会か、家族か、自分か。クラウドでやり取りされる様々な仕事模様を見ながら私は改めて考えた。「私は、社会や家族、人のためになる仕事をしたい」――それからは、クラウドソーシングは静観し、細々とでも仕事で友人や知人からの仕事を大切にこなしていった。たとえ収入は少なくても、人のためになる仕事を続けていれば、きっと結果はついてくるはずだと。そのうちに、私の仕事ぶりをSNSで見ていた先輩から、今の仕事依頼が来たのだった。

 ネットやパソコンが普及し、私のように家にいながらにして、沢山の人とつながれる時代になった。多くの仕事が生まれ、新しく多様な働き方も次々と出てきている。だからこそ今、人としての高いモラルが求められると強く思う。それは受ける側も、提供する側もだ。誰かを困らせる仕事や、労働者が疲弊するような安い仕事を生むべきではないし、それを引き受けて助長しないことも大切だ。また社会は、人間が成した仕事の結果でできている。今の豊かで多様な日本は、先人たちが汗水流して働いた末に築き上げられた成果だ。良い仕事をすれば、社会が良くなり、良い未来につながる。だから私はこれからも、社会のため人のためになると自分が信じる仕事を選び続けたい。私が選ぶ仕事が、大切な子どもたちの明るい未来につながると思うから。

戻る