【 努力賞 】
【テーマ:仕事を通じて実現したい夢】
誇りに思う、清掃の仕事
東京都  米 田 優 子  29歳

夢。小学生の頃は宇宙飛行士になろうと決めていた。遠くの星に行ってみたいと思っていた。大学院に進み、素粒子を研究した。

今、私は床のしみをとっている。清掃員として、オフィスビルで働いている。私は清掃の仕事に誇りを持っている。大好きで天職だと思っている。

それなのに、初めて会った人に、自分の職業と学歴を話すと、決まってこう聞かれる。

「え!大学院で素粒子を研究していたのに、なぜ全然違う掃除の仕事についているのですか!?」

この質問には、私は大変がっかりする。こんなにも清掃の仕事を誇らしく思っていることを、なかなか伝えられないからだ。

小学校で、宇宙へ行く夢を持ってから、ずっと宇宙を目指して、大学院の修士課程では素粒子を研究した。素粒子とは、物質の最も小さい粒で、宇宙は素粒子の集まりなので、宇宙を知るには素粒子を知るのが大切で、これも宇宙の夢の延長線上だ。ところが、ある日私は疑問を持ってしまった。宇宙や素粒子は好き。だけど、自分が宇宙に行きたいのは、何のためなのか。宇宙や地球、命の素晴らしさを伝えるためだと今までは思っていた。しかし、今は、違和感がある。自分一人だけ、ただ宇宙に行っても、誰が喜び、誰が幸せになるのか。そう、悩んだ。

ところで、大学院の頃、私は掃除のアルバイトがとても気に入っていた。汚いところがきれいになる。縁の下の力持ちで、人の役に立ちながらも、表立って目立つことはしない。謙虚で素敵だと感じていた。汚れを落とす作業も、コツコツ集中し無心になれて、性に合っていた。そこで、私は大学院を修了した後、清掃の仕事に就いた。思っていたとおり、清掃は最高の仕事だった。汚れをきれいにして、お客様は快適になって、とても喜んでくれる。汚れによって洗剤や清掃方法が違って奥深い。チームを組むことや、人をまとめることも、大変勉強になった。とてもやりがいがある仕事だ。

そして、清掃で一番大切なことは、人間性だと気づいた。あいさつ、マナー、仕事をきちんとやる、不正なことはしない、失敗は隠さない、一生懸命仕事をする、人に優しくする。当たり前だけど、一番大切なこと。それが信頼を生み、仕事も人生もより良く、助け合える、笑顔もあふれるようになる。最高の仕事だと思っていた。

それなのに、人に自分の職業と学歴を話すと、「え!大学院で素粒子を研究していたのに、なぜ全然違う掃除の仕事についているのですか!?」

と言われ、清掃の良さをなかなか伝えられなかった。もちろん、今も宇宙や素粒子は好きだし、宇宙に行きたい。でも、今の夢とは違うと感じる。もっと大事なものがあると感じる。

もっと大事なもの、と思うと、清掃の仲間の顔が浮かんだ。優しくて、気を使って、話を聞いてくれて、人それぞれみんないい人ばかりで、そんな仲間のためにもがんばりたいと思う。そうか、私が一番なりたいのは……。仲間のように、心がきれいな人。それは、清掃に一番必要な物でもあると思った。人生に一番大切なものでもあると思った。私の夢。心のきれいな人になりたい。人に優しくできる、心の温かい人になりたい。みんなのために動いて、人の役に立ち、みんなが幸せになれればと思う。私は、清掃の仕事に就いて、大変良かった。

人は、何の職業に就いているのか、が問題なのではないと思う。人は、何を心に思って何を行っているのか、が大事だと思う。つまり、その人が宇宙飛行士なのか清掃員なのかは問題ではない。どれだけ優しい気持ちをもって、どれだけ良いことを行おうと努力しているのか、が大切だと思う。床に散らばっていたコーヒーのしみをタオルで取り除き終わって、立ち上がった。誠実に、正直に、一生懸命、心優しい気持ちをもってこれからも頑張ろうと心に決めた。

すると、女性のお客様が、

「いつもありがとうございます」

と、声をかけてくれた。

嬉しくて、悩みなんてすっかり吹き飛んでいた。

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