【 努力賞 】
【テーマ:働くこと・職探しを通じて学んだこと】
「働く」に向き合うということ
神奈川県  K.M  28歳

26歳の時に仕事を辞めた。正確に言うと正社員を辞めた。理由は結婚だった。所謂、寿退社である。

結婚したら女性は会社を辞める。それはもう一昔も二昔も前の話であるように思う。学生時代の友人や同期入社の女の子たちの中でそもそも結婚している子は数えるほどで、さらに退職している子なんて一人二人いるかいないかだ。

 では何故寿退社を選んだかというと、結婚相手が転勤族だから・・というのは建前でハードワークに身体が悲鳴をあげていたからだった。システムエンジニアの職に就いていた。「男性と女性を区別しない。差別しない。」がモットーの職場に憧れて仕事中心の生活をしていたが、残業ありきの現場、度重なる夜勤や早朝出勤、休日でも容赦なくかかってくる電話への対応に疲弊し、体と心が壊れる寸前だった。

 辞めてしまえば気持ちが楽になるかと思えば、決してそのようなことはなかった。周囲には仕事を辞めて専業主婦への道をすすんだ私を「勝ち組」と称してくれる人もいたが、私は急に社会から断絶された気がして怖かった。必死で四年間積み重ねてきたキャリアは自分で捨てた。例え今から正社員で就職できたとしても主人の転勤の辞令がいつくるかわからないため、直ぐに辞めて周囲に迷惑をかけてしまうかもしれない。妊娠して直ぐに産休に入ってしまい周囲に迷惑をかけてしまうかもしれない。そう思うと次の就職活動へ踏み出す勇気がもてなかった。

そして遂に辛い気持ちのまま、何もしていないことに耐えられなくなった私はハローワークで紹介してもらった公共職業訓練に参加してみることにした。Microsoft Officeの技能取得を目指す四か月間のクラスだった。

職業訓練に参加してみて一番驚いたのは、老若男女さまざまな境遇の人が集まっていたことだ。まだ就職活動もしたことがない10代の女性、能力はあるが前職の賃金が安くハードワークだったため退職した20代の女性、コミュニケーションが上手く取れず職を転々とする30代の女性、小学生の子供がおり、何度も授業を早退する40代の女性、バックパッカーとして世界中をめぐりそろそろ就職を考えている40代の男性・・・。書ききれないほど一人ひとり経歴も現在身を置く環境も異なっていた。

ただ一つ参加している全員に共通している思いがあった。それは「働きたい」ということだ。もちろんどのように働きたいかは異なる。夢がある人もいれば、生活のためにお金を沢山稼ぎたい人もいた。沢山働きたい人もいれば、沢山働けない人もいた。しかしみんな違って当然だった。生きている環境、大切にしたいことが異なるのだから。そこに正解などない。そう気が付いた時に心がすっと軽くなった。

テレビをはじめとしたメディアから連日のように聞こえてくる「女性の活躍推進」を耳にするたびに、女性は子育てしながら家事もして働かないといけないのかと胸が苦しくなっていた。しかし職業訓練に参加して様々な立場の人達と話を重ねるうちに考えに変化が生まれた。各々全く違う生活をしており、違う価値観をもっているなかで自分なりの「活躍」を選択していかなければならないのではないか。そして選ぶためには置かれた環境の中で何が大切なのかを明確にして「働く」ということに自分自身が向き合わないといけないと思う。

職業訓練を卒業し、私は大学で学生のパソコン利用をサポートする職についた。非常勤職員のため収入は以前と比べ多くはないが、パソコン関係の仕事をしながら忙しい主人を支える時間を大切にしたいという思いから選んだ仕事だ。とてもやりがいのある仕事だが、主人に転勤の辞令がでたときや妊娠したときには現在の職を辞めなければならない。しかし働くことを諦める必要はない。その時の状況に即した大切にしたいことを考え、自分なりの働き方を家族と話し合いながら今後も模索していきたい。

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