「Aちゃんの居場所をつくってくれてありがとう」。
学校司書になっていちばんうれしかったのが、彼女の担任の先生に言われたこの一言です。
4年生のとき、いじめで不登校だったAちゃんが、今年5年生になって図書委員をしています。彼女には軽い学習障がいがあって、同じ話を何度もしてしまう傾向があり、からかいの対象になりやすいようです。
いじめた相手と違うクラスにはなったものの、顔をあわせなければならない場所に戻ってきて、また学校に通えるようになった彼女を私は尊敬しています。
ある日、担任の先生がAちゃんの仕事ぶりを見にきて、
「図書室は居心地がいい?」とAちゃんにききました。
「うん」。
「よかった〜。図書委員の仕事は楽しい?」
「楽しい!」。
満面の笑みで答える彼女をみて、私は心からよかったと思いました。
先日、5年生が好きな本のポップをつくる授業があり、お手伝いに行きました。Aちゃんは私がおすすめランキング1位として図書室に展示していた『ジャコのお菓子な学校』という本を選んでくれました。字を読んだり計算をしたりするのが苦手なジャコという少年が、お菓子づくりを通して本を読むのが好きになり、成長していくお話です。
Aちゃんは、「何度失敗してもいい。何度でも立ちあがればいい」ということばをキャッチコピーにしていました。Aちゃんは自分自身とジャコを重ねあわせたのかもしれません。
私も大学のとき、学校に行けなくなってしまい、学生相談室のカウンセラーの先生にお世話になった時期がありました。私の心の鏡となって話を引きだしてくれる、先生のようなカウンセラーになりたくて、他の大学に入り直して心理学を学びました。
勉強するうちに、私は心理職には不向きだと思いましたが、子どもも本も大好きなので、今の仕事と出会えてうれしく思っています。
保健室やスクールカウンセラーの相談室が、悩んでいる子どもの駆け込み寺であるのはもちろんですが、図書室もその一端を担うべきだと思います。
なぜなら子どもにとってスクールカウンセラーのところよりも、保健室の方が相談に行きやすく、さらに垣根が低いのが図書室ではないかと思うからです。
たくさんの本が良き相談相手になってくれますし、担任の先生でも親の立場でもない大人に話をきいてもらえる場所が、子どもには必要だと私は思います。
休み時間や放課後の図書室にはたくさんの子どもたちがやってきます。「あぁ落ち着くなぁ」と、畳のスペースで寝そべって本を読む子。教室では落ち着きがないのに、図書室では別人のように静かに漫画を読む子ども。「先生!5年生になったら図書委員になりたい!」と言ってくれる子もいます。「お待ちしてるよ!」と私はいつも笑顔でこたえています。
学校司書は2015年の学校図書館法の改正によって規定された新しい呼称で、それまで図書支援員、図書館担当職員などばらばらだった名称を統一したものです。
平成26年の調査によると、学校司書を配置している小学校は54.4%と約半数です。司書教諭は担任の先生と兼任していて、図書室の仕事にまで手が回らないのが現状なので、今後、司書を配置する学校をさらに増やしていくべきだと思います。
将来は、「おすすめの本は?」ときいてくる子どもに、薬を処方するように、その子に寄り添ってくれる本をすぐに勧められる司書になるのが目標です。
そしていつかは、子どもに自分のつくった物語を読んであげるのが夢です。悩んでいる子どもが「元気をもらえたな」、「学校はいやだけど行こうかな」、「生きていくのも悪くないな」。そう思ってもらえる作品をつくれたら、こんなにうれしいことはありません。