【 努力賞 】
【テーマ:仕事を通じて実現したい夢】
夏のごちそう、272円の夢
福岡県  一 春  26歳

眩しい視界、揺らめく陽炎、頭に響くセミの声。誰に言うでもなく、あついと一人ごちてしまっても仕方ない。日傘をさしてもなお突き刺さる日光で灰になりそうな心地を味わいながら、次々吹き出してくる汗をぬぐう。夏がきた。

若者サポートステーションまでの道のり、片道約1時間。車のない私は、道路の照り返しを踏みしめて懸命に歩くのみ。

26歳、無職。好きなものはチョコミントアイス、嫌いなものはリクルートスーツ。

若者サポートステーションに通い始めて半年が過ぎた。

大学を卒業するさい就職活動に失敗して、早4年。元から内気だった私は自信の喪失と共に立派な引きこもりになり、緊張で嘔吐しながらなんとかもぎ取った非正規職員すら1年続かない始末。

一時期は本当に、生きることが難しいのだから残る道は死しかないとも考えた。けれど、死ねなかった。

死にたくない。私はまだ、何も知らないじゃあないか。例えば恋愛やお洒落、友達との遠出、旅行…この歳にして、そんなことすらまだ楽しんでいない事実に気が付いた。なんてもったいない人生なのだろう。それを楽しんでいる人と同じ重量の命が、ここにあるのに。

知りたいと思った。

変わりたい。変わるのはこわい。外は、人は恐ろしい、でも。

何日も何日も悩んである日、一歩を踏み出した。はじめに訪ねたのは福岡県若年者しごとサポートセンター。就職に向かうコミュニケーション能力に自信がないんですとマスク越しにこぼす私に職員さんは一枚の紙を見せてくれた。実はこの建物にもうひとつ、就労支援をしてる場所があるんだよ、と。

震える手でサポートステーションの扉を叩いた時のことを思い出す。

実はあの日、サポステは休館日だったのだ。真っ暗な部屋を見て妙に悔しい気持ちになったのを覚えている。おそらく『こんなに緊張して頑張って行ったのに、開いてないとはどういう了見だ!?』という変な怒りがあったのだろう。今となっては笑い話だ。

サポートステーションに通っているからといって、生活が劇的に変わった訳ではない。今だって無職だし、知り合いに言わせれば立派な引きこもりで、人だって怖い。

でも体力のない身を動かして真夏の猛暑の中、往復2時間を歩く程度には外に出られるようになった。世間様から見ればなんのこと、けれど私にとっては大きな変化。

小さな部屋から外へ、しごとサポートセンターからサポートステーションへ、そして面談から就職相談へ。

先日とうとう就労体験先へ行くことに成功した。仕事場を見せて頂くのは心臓が飛び出してしまいそうな程緊張したけれど、初めて実際の会社へと敷居を超えたことに感動して、ご褒美に取っておいたチョコミントアイスがとんでもなく美味しく感じたものだ。

思うように口が動かない日も、頭が真っ白になる日もある。相談員のIさんはどもったり噛んだりする私の話を辛抱強く聞いて下さって、感謝の気持ちでいっぱいだ。

今日の面談ではどう話そう、少しは前進できるかな。劇的でなくてもいい、少しずつあがいて手を伸ばしながら前へ進みたい。自信は全くもってないけれど一人じゃない。きっと頑張れる。

ようやく顔なじみになったIさんの顔を思い浮かべて、そんなことを思った。

仕事を通じて叶えたい夢はそりゃあたくさんある。自立したいし人の役に立ちたい、携帯を買い替えていつかは車だって…いや。

とりあえずの夢はそうだ、ご褒美のチョコミントアイスをスーパーカップからハーゲンダッツに格上げすることを目標に頑張ろうじゃないか。

青と茶色の甘い夢を描きながら私は今日も、風が吹く橋の上を懸命に歩いて行く。

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