【 努力賞 】
【テーマ:多様な働き方への提言】
専業主婦の居場所
東北芸術工科大学  東海林 有 紗  20歳

小学校の頃から「かぎっ子」という言葉をよく耳にするようになった。かぎっ子というのは、下校時間に両親や祖父母が自宅におらず、自ら家の鍵を持参している子供の事を指す通称である。私の周りの友達はかぎっ子が多く、皆当たり前のようにランドセルに鍵をぶら下げていた。私の家庭では、父が働いていたがそれ以外の家族は皆、常に自宅にいた。いつも玄関のドアを開けると母が夕飯の支度をしていた。母が専業主婦であることにより、私は一度も家に帰って誰もいないという状況を味わうことがなかった。

私の母が専業主婦になった理由は、体が弱いからだ。日常生活に支障をきたす難病ではないが、ひどい眩暈がして家事が出来ず、寝込んでしまうことがよくある。専業主婦の主な仕事は、家族全員分の炊事、洗濯をはじめとした家事である。朝は5時に起きて家族の弁当を作り、ごみ出しに行く。それだけではない。我が家には要介護者の祖母がいて、食事や着替え、入浴やトイレも自分一人ではできない。少し目を離すと家を出て徘徊したり、事故にも繋がりかねない行動をしたり等危険である。そのため、母は体が弱いのにも関わらず、つきっきりで世話をしている。自分の事はいつも二の次の母の姿を見てきた。

「ごめんね、お母さんが働いていないからお金のことで不自由することがたくさんあるよね」

大学生になった私がアルバイトに出かけようとすると、母がいつも言う言葉だ。母は、共働きが当たり前となった今、自分が働かないことで家族に迷惑をかけるという思想を持っていた。しかし、私をはじめとした家族全員、迷惑だなんて思ったことはなく、父も働けない母の分まで家族のために労働することは自分の使命だと語っていた。

私の住んでいる山形県は、共働き率が68.15%で全国1位*1だ。その背景としては、山形県では二世帯同居率が高く、24.9%で1位*2であることが大きい。両親との同居により働いている間も子供を世話や送り迎えをしてもらい、その代わり家計を支え、家事を分担するという家族が助け合って生きていく生活を送ることができる。

「男性は外で働き、女性は家庭を守る」という役割分担の意識は失われ、夫婦で家計と家事を支えあう生き方へ変化している。まだ道のりは遠いが男女雇用機会均等法や男女共同参画社会基本法などの法律は、徐々に男女とも働きやすい平等な社会を作っている。女性の社会進出は新しい思想を生み、効率的に経済が回っていく。私も一女性として働きやすい環境の整った企業の方がいい。

しかし、共働きが当たり前の社会になっていくということは、専業主婦の居場所は無くなっていくことだと考える。父が働きに出ている間、母が家事を担ってくれている。その関係が両者なんの不満もなく続いているのだから無理に共働きをする必要はないと思うし、私はそんな母を尊敬している。

引用先

*1都道府県別統計とランキングで見る県民性 http://todo-ran.com/t/kiji/11891

*2山形の同居率が高い理由 http://samidare.jp/renas/note?p=list&c=352150

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