高校に入る前の三月の終わり。雪が解け、木の枝の先が少しだけ色付いてきた頃。新たな自分を見つけた。これからの未来で光り輝くことを約束した、自分を。
私が八歳の頃、初めて「憧れ」という感情を知った。それは眩しくて、言いようのない輝きを放ったもので、私の心に大きな影響を与えた。そいて思ったのだ。あの人のようになりたいと、強く。
その人は母の姉である。マッサージ師を務めていて、立派な店長なのだ。人の身体を自分の手で癒し、自らの手で安心と安らぎを与える。そんなことができるお姉さんはすごいなと本当に思った。
だから思った。「あのひとになりたい!」マッサージ師になれば良いんじゃないかと。けれどちがう。本当になりたいものじゃない。自分が描いている未来像なんかじゃない。でもなりたい。心の奥底でモヤモヤした矛盾がいつもあった。天と地のような正反対の矛盾は時折私を苦しめた。苦しめていた。
高校に入る前の三月の終わり。私は自分のなりたい職業が分かった。これほどにドキドキしたことのない胸の高鳴りと未来への希望があふれていた。それは決して手に取ることのできないものだった。自分の追い求めていた未来。確かに煌めいている自分の未来。本当になりたいと強く思った夢。それは看護師。
私の家族はみんな難病持ち。もう余命を宣告されている祖父だっている。長く生きられないと言われている一人もいて、一生治らない病気を持っている祖母も、夢のきっかけを与えてくれたお姉さんもいる。そんな家族に私は、何ができるだろうって思った。私が看護師になるまでに充分な時間が必要で、それまでに誰かが消えてしまうかもしれない。でも私は必ずなってみせる。もう憧れだけじゃなく、本当のなりたい自分に。叶えたらいつか家族の身体を癒してあげたい。少しでも緩和させてあげたい。長く生きられるように、私の元気を分けてあげたい。
お姉さん、本当にありがとう。夢のきっかけをくれて。あなたがあの頃、私に憧れをくれたから今の私がいる。今度は私があなたに恩返しする番だね。未来、輝くであろう私を楽しみにしていてね。ありがとう。
私は「憧れ」だけの夢を捨てた。けれど、過去の自分のがむしゃらだった思いは、今も胸に灯り続けている。