【 努力賞 】
【テーマ:仕事を通じて実現したい夢】
無欲になれない母親の味方
女子聖学院高校  榎 本 彩 海  16歳

想像してみよう。もし将来、あなたは子供を産む。あなたも、あなたの夫も幼い頃からの夢を叶え、充実した日々を送っている。二人とも仕事はやめたくはないが、あなたの子供の名前は保育園の空きを待つリストの下の下の下に書かれている。あなたとあなたの夫の経済力では私立の保育園に通わせたり、ベビーシッターを雇う、そんな選択肢はない。周りの人はこう言う、母親というものは無欲であるべきだ。そんなときあなたは無欲になれるだろうか。私だったら、無欲にはなれない。

 日本に生まれ、アメリカでアイデンティティーを築き上げた私は、そんな暮らしの中で好きだったことがある。それはベビーシッターという仕事だ。日本ではあまりなじみのない存在だが12歳以下の子供だけで留守番させることが州法によって禁じられているアメリカでは、必要不可欠な存在である。親が出かけている間、子供と一緒に留守番をする。アメリカに住む、すべての高校生が一度は経験したことがある、そんなアルバイトだ。話だけ聞くと、楽しそうで、楽な仕事に見えるかもしれない。けれども、意外と体力を必要とし、神経をすり減らされる仕事だ。なぜなら、すべての子供が天使というわけではないからだ。子供というものはときに、恐ろしく理不尽で、こちらが泣きたくなるようなことも平気でしてくる。それは私がアメリカという国で学んだことだ。またそれと同時に子供というものは、あったかくて優しくて、ときに残酷で、憎らしく、そして愛おしい、そんな存在であるということも学んだ。

 一見、待機児童問題に悩まされている日本ではベビーシッターは普及しやすく見える。しかし、実はほとんど普及していない。その理由の一つに料金が高額だからだということが挙げられる。また、ベビーシッターは資格がなくてもできるため、信用できないと考える保護者も多いからだ。だから私は将来リーズナブルな価格で信用できる、そんなベビーシッターを提供できる会社を起業したいと思う。

 まず最初に、我が社ではリーズナブルな価格でベビーシッターを提供できるように高校生と大学生を全般に採用する。また、信用できるベビーシッターをつくるために、3か月間の研修期間を高校生、大学生に提供する。高校生、大学生が気軽に、お小遣い稼ぎ程度にできる、けれども質の良い、そんな会社を起業したい。また、親と子供へ簡単なアンケートを毎回必ず実施し、その結果をベースにして、ベビーシッターにランクをつけ、ランクが上がるたびに時給も上がっていく。そんな、努力をすれば報われるというシステムも作っていこうと考えている。

 私はまだ、結婚という言葉からは程遠く、恋の味すら知らない。そんな16歳だ。ましては、母親というものになったこともない。けれども、私は母親になったから、仕事を辞めなくてはならないという考え方は間違っていると思う。ステレオタイプは母親というものは無欲であるべきだと主張するかもしれない。しかし、私はそんな理屈だけでは、潔く無欲にはなれない。それほど潔く、自分の築き上げてきた位置を降りることはできないだろう。東京は保育園の空きを待つ、待機児童であふれかえっている。もし、ベビーシッターが普及していけば、子供を産んだせいで、仕事に戻れない。そんな、もどかしさを覚える母親の助けになるに違いない。

 人はみな夢を持っている。もしかしたら、その夢を叶えたひともいるかもしれない。もしかしたら、その夢を忘れた人もいるかもしれない。また、もしかしたらその夢を自分の意思で人生のどこかに置いてきた人もいるだろう。また、同時に夢を追い続けている、そんな人もいるだろう。私は信用できるベビーシッターをリーズナブルな価格で提供できる会社を起業するという夢を追い続ける。そして、誰が何と言おうと無欲になれない、そんな母親たちの味方でいたい。

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