【 佳  作 】

【テーマ:働くこと・職探しを通じて学んだこと】
職探し、食探し
福岡県  和 田 隆 志  29歳

私にはとても親しい友人がいる。同じ年の異性で同じ高校に通っていた。クラスは三年間一緒になった事がない。同じ授業を受けてはいたようだが、性格もまるで知らない。卒業するまで一度も会話したことさえない。そんな彼女と再会したのは、私が高校卒業目前に進路指導の先生に急かされ、とりあえず就職した会社をものの三カ月ほどで辞めた後のこと。これからどうしようかとモヤモヤしながら更に三カ月経った時だった。夢や目的もなく、また「とりあえず働かなければ・・・」という気持ちで見つけたアルバイト先でのことだ。

ぎこちなくスーツを着て面接に向かう私は、衣料品売り場の中で仕事をする彼女とふと目があったのだ。「あ!ここ受けにきたと?」と彼女に聞かれ「あ、うん!」と返事をした。一度も会話したことがなくとも、学生時代の日常にいた顔を急に見つけると案外安心する・・・とはいかず、驚きもあり、緊張はピークに達していた。だがその後なんとか無事に面接を終え、運よくその日のうちに採用となった。

仕事が始まると、毎日一つ一つ教えられたことをこなすのが精一杯だった。高校を卒業した年にできたこの店舗に半年遅れで入社した私は、いつも焦りを感じていた。その反面救いだったのは、同じ年の仲間が多く働いていたことだと思う。仕事や職場の雰囲気にも慣れてきた頃、私達は仕事について語り合うようになっていた。私の考えを伝えると、彼女も似たようなことを考えていた。会議での発言については深くまで意図を汲みとってくれ、更により良い提案へ導いてくれた。まさに言いたかったことを代弁してくれるような頼もしい存在であり、私は一緒に働く仲間として、人として、彼女を尊敬するようになった。

 勤めだして約3年経った頃、私は何気なく彼女にこんな言葉を投げかけた。「何のために仕事頑張りようー?」答えを待つ私。「えー?自分はー?」と質問で返された。漠然とした内容だから仕方がないか。私から聞いた手前なんとか答えた。「んー、明日の自分が楽をするためやかー。」すると彼女は「そっかー、なんかいいねー。明日の自分が楽をするためかー。」私はそう繰り返された後、ちょっと気恥ずかしい気持ちになった。「まあ本当のことやしなあ・・・」と思いながら私は再度聞き返した。「ねー、自分は何のために仕事頑張りようー?」彼女は当然のように笑顔で答えた。

「私は家に帰ってまず即行で戸棚のお菓子を食べて、おかんの作った唐揚げと白米を美味しく食べるためやねー。」「え?」「ん?」「おー!!!」

当時の私には斬新な発想で、お互いに笑った。それと同時にとても羨ましい気持ちにもなった。夢や目的を見つけることだけに縛られ、『明日の自分のため、とりあえずそれが正解だ』と言い聞かせ働く私。対して数十分後、勢いよく戸棚を開け食べ物に手を伸ばし口に運ぶために働くと言いきった彼女。私の頑張る理由よりも『生きているとはまさしくこういうことかもしれない!』と思える返答だった。「仕事の後の一杯は格別」などという、よく聞くそれとは違うもっと真に迫った答えのような気がした。いつもバリバリ仕事をこなす彼女の、ユニークさを垣間見た瞬間だった。そして私の仕事に対する考えを、前向きで優しい方向に広げ、もう少し肩の力を抜いてもいいと教えてくれるような言葉だった。この時私は、私の人生観が明るく豊かになる業を得たのだと思う。

 高校を卒業して十年以上経つ現在、彼女とはいまだに会って話をする。彼女は昨年結婚し、約半年ほど前に産まれた赤ちゃんを抱かせてくれた。おばけが怖くて一人で寝られない等と言っていた彼女はお母さんになった。

私にはとても親しい友人がいる。唯一無二の親しい友人であり、これからも仕事と人生について多くを気づかせてくれるような、そんな友人だ。

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