【 佳 作 】
私の社会人生活のスタートは、挫折から始まった。就職活動についての情報を収集し、企業を訪問した時のことだ。「英文学科卒では無理です。製菓の勉強を一からやって、出直してください」と言われ、ショックだった。夢や理想では、やりたい仕事一つにも就けないのだ。わたしはリクルートスーツに身をつつみ、無難に一般企業に就職した。しかし、夢や目標のない社会人生活では、自分のモチベーションを保ち続けることができなかった。休み時間に製菓の本を読んでいるときのこと、上司が本を読んでいる私を見つけて「いつまでも夢を追い続けてるんじゃないよ。みっともない。仕事に専念しなさい」との忠告を受けた。おそらく、職場での私は「心ここにあらず」の状態だったのだろう。社長や同僚には迷惑をかけたと思う。次第に心がついていかなくなり、半年で会社を辞めた。「ダメ人間」という烙印を押された気がした。
同時に、ふつふつと湧き上がる闘志が芽生えてくるのを感じた。「ダメもとでもいい。当たって砕け
てみよう」と思った私は、特産品開発で地域おこし協力隊の募集を行っていた滋賀県湖南市に飛び込んだ。何のとりえもない私を、地域の人はとても暖かく迎え入れてくれた。地域の資源をスイーツにして生かす為にはどのようにしたらいいか、主体的に参加し、自身の中に落とし込んでベストな方法への気付きを得たいという思いから、地域の人から食材提供を受けて、さまざまな商品開発に取り組んでいる。
わたしの夢は「スイーツプロデューサー」になることだ。湖南市の農産物を使用した、新しい商品開発を進めていきたい。今年の7月には、保健所の許可を得た自分の店舗(作業場)を借りることができた。湖南市には「こなん米粉」という米細かいパウダー状の米粉がある。その米粉を使用した、小さいナンを「こなん」として開発、グルテンフリーのスイーツ開発を進めている。ほかにも、大手種苗会社のファイトリッチシリーズの人参を使用したスイーツを、商品の考案、試作、マーケティング、パッケージデザインの提案、製造まで全てを担っていく予定だ。新設される道の駅での販売や試食会、マーケティングを行い、ECサイトやネットショッピングツールを利用した販売を開始する。そのためのビジネススキームや技術について、仕事の傍らで製菓学校に通い、学びを深めている。
道の駅に建設予定の教室スペースでは、湖南市で採れた作物を使用して、地産地消の美味しいスイーツ教室も予定している。農業生産→商品化という6次産業化の逆、商品から農産物の安定供給にアプローチして、作付農産物を増やし、それを湖南市の名産にするという方向で考えている。湖南市には、名産や農作物がないため、「逆6次産業化」を狙って、市役所や農協との連携を進めながら仕事をしている。毎日が、自分の夢をかなえるためのとてもキラキラした毎日だ。
海外では、大学を卒業してから社会人になっても学び続ける「リカレント教育」が充実している。日本では、働きながら学び続ける環境が整っていないと感じている。大学院に進学する場合、仕事をいったん辞めてからでないと教育カリキュラムのうえでも難しい。「女性は子育てに専念するべき」「結婚したら家庭に入って、夫や家族を支える存在になるべき」という古い価値観では、新しいイノベーションは生まれないと思うのだ。私の周りには、仕事がきっかけでキャリアを捨てて家族のために己を殺している人が多い。そんな状態では、キャリアを捨てて結婚したいと思う女性も増えないのではないか。私は女性が大人になっても学び続け、自己実現ができる環境を強く望んでいる。自分が起業してからも、働きながら学び、仕事に生かし、さまざまな挑戦ができるように自分自身が輝き続けたい。