【 入 選 】
「ありがとう。頑張ったね、お疲れ様」
この言葉は、私にとって大切な言葉。
私は島根県にある、住まいのおたすけ隊・島根電工グループの協和通信工業に入社してテレビ工事・電話設備工事などの弱電設備工事に携わって8年目になります。
入社して1か月程経ったある日、とある福祉施設のナースコール設備更新工事があり、作業者5人の内の1人に選ばれました。工事が始まる前は、初めての長期現場という事もあり、やる気に満ち溢れていました。
しかし、いざ工事が始まると、解らない事だらけで何をしても上手くいかず、毎日の様に先輩から叱られてしまい、更に叱られている姿を施設の方に見られてしまいました。叱られている姿を見られてしまった恥ずかしさや、同じ様な失敗を繰り返してしまう自分への情けなさで、工事前に満ち溢れていたやる気はすっかり無くなってしまいました。何故こんな辛い思いをして作業しなくてはいけないのかと思う様になっていました。
そんなある日、施設内のナースコール機器を新しいナースコール機器へ取替える作業を行っている最中、施設の方々が古いナースコール機器を使用していた時の不満と新しくなるナースコール機器への期待を話しておられるのを耳にしました。
この会話を聞くまでの私は、自分の事しか考えていませんでした。先輩から叱られない為、早くこの工事を終わらせたい為、お客様がどんな気持ちを持っているのかを知りもせず、考えもせずにいました。この日を境に常にお客様の立場になって物事を考える様に心がけました。お客様との会話により耳を傾ける様になり、先輩への作業に対する質問も増えました。作業へ向かう姿勢が自分の為からお客様の為へ変わるにつれて、お客様との会話も自然と増えていきました。今回の工事に関係する話から、叱られている姿から私が新入社員と分かった為か出身校はどこか等、たわいのない話をしました。毎日の様に声を掛けてもらえる様になり、叱られる回数は減りませんでしたが、日々の作業に楽しさを感じるようになっていました。
そして工事最終日。工事は無事完了し、お客様への挨拶も終わり帰ろうとした時、不意にお客様に呼び止められ「ありがとう。頑張ったね、お疲れ様」と声を掛けられました。その方は毎日声を掛けてくださった方でした。
この言葉を聴いた時、胸から込み上げてくるものがあり、それまでの辛かった事、苦しかった事全てが溶けていくようでした。毎日叱られてばかりだった私に「ありがとう」の言葉をかけてくれた嬉しさからか、帰りの車内で泣いてしまいました。
それから5年後、今度は電話設備の更新工事に作業責任者という立場で携わる事になり打ち合わせの為、福祉施設を訪ねた時、懐かしい声がしました。
5年前、私に声を掛けてくださった方でした。5年も経つのに私の事を覚えていていただいた事に感動しました。この仕事を頑張って続けてきて良かったと思い、5年前できなかったお客様の立場に立って作業を行い、お客様に感動して頂ける仕事をしようと決意しました。
働くという事は、日々の労働に対して給料をもらい、日々の生活を支える事だけでなく今回の様な経験を通して人間的に成長させてくれる事だと感じました。
入社して8年目を迎える今、辛い事、苦しい事があると思い出す、魔法の言葉。
「ありがとう。頑張ったね、お疲れ様」
あの時感じた気持ちを忘れる事無く、お客様の立場に立った作業を心懸け、後輩にも技術だけでなく、人間的に成長してもらえるきっかけとなるように自分の経験を伝えて毎日を過ごしています。