【 入 選 】

【 テーマ:働くこと・職探しを通じて学んだこと】
達成感
三重県  hitomi  31歳

事務所のど真ん中に設置された、椅子が置かれていない、少し低めの机。

私は、毎朝7時半に、電動車いすでこの席につき、仕事を始める。

育児中で早出出勤をしているため、他の職員はまだ出勤していない。

まだ薄暗く静まり返った通路を通り過ぎ、事務所に入ると、「おはよう。今日もよく出勤してきたね。」と、机が語りかける。

社会人になって10年。

車椅子を使って働く人は年々増え、このような机もよく見かけるようになった。

私が働くことを通じて学んだことはたくさんあるが、その中で、最も大きなものは、「達成感」である。

障害により担当できる業務には限りがあるが、新採当時お世話になった上司や先輩職員は、「できそうなことは何でもやってみよう」という姿勢で、私に様々な業務を体験させてくれた。そして、できることについては最後まで自分の力でやり遂げるよう、見守り指導してくれたおかげで、大きな達成感を得ることができた。

「達成感」というのはよく口にされる言葉だが、とても重みのある貴重な経験だと私は感じる。

学生時代からずっと、健常者とともに普通学校で学んだり、様々な市民活動に携わるなど、健常者との共生を望み実践し続けてきた私にとって、健常者に遅れをとらないよう、「頑張る」ことはたくさん経験し、その意味深さを感じることも多々あったように思う。

しかし、健常者と同じレベルを追い求め続けてきた私にとって、「頑張る」こと、それだけに終始してしまっていた。

健常者と同じようにできない部分があるから障害者。

健常者と同じレベルを追い求め続けてしまうと、そのことだけで疲れ果ててしまい、本来、その先に得られるはずの「達成感」を掴み取ることができずにいたことを、私は働くことを通じて気づいたように思う。

障害者は、健常者に比べできないことは多いが、健常者に引けをとらない部分もたくさんある。その部分を引出し、輝かせるためには、障害を持つ私自身が、健常者のレベルをものさしとしない、自分の適性にあったオリジナルな目標をしっかり持ち、上司・同僚の理解と助けを得ながら、業務を進めることだと思う。そして、その先には、しっかりと掴み取れることのできる、大きな大きな「達成感」という喜びが待っているのだ。

私が就職した当時、県内の障害者雇用率は全国最下位に近く、採用説明会に行ってもほとんどの企業から門前払いされた。「本当に働きたいと思うなら、都会に出ることを考えたほうがいいよ」というアドバイスも受けたが、地元で働きたいという念願が叶い、三重県に採用された。

障害の特性上、加齢による体力の低下が激しく、今後、いつまで働けるかわからないが、働くことを通して学び得た「達成感」という喜びは、私の人生の礎となり、これから歩む道を照らし続けてくれることだろう。

午後3時過ぎ、他の職員が仕事をしてにぎやかな事務所を、「お先に失礼します」と一足早く退勤する。「お疲れ様」「また明日」「おやすみ」という同僚の何気ない一言が、働く喜び、社会と繋がっていることの喜びを実感させ、どんなに身体が疲れていても、体力を回復させ、明日も出勤したいという衝動に駆られる。

無理をするわけではないが、そんな毎日が一日でも長く続くことを願う私が、今ここにいる。

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