【 入 選 】
“One child, one teacher, one pen and one book can change the world. Education is the only solution.” 人権運動家であるマララ・ユスフザイさんは2013年の夏、国連演説スピーチでこう世界に訴えた。テレビの前の私はその言葉に強く心をうたれた。それと同時に私の幼い頃の経験が蘇ってきた。
私は幼稚園、小学校、そして高校3年間を父の仕事の関係でアメリカのニューヨーク州で過ごした。現地の幼稚園の教室に一歩入った途端、そこには日本とは懸け離れた別世界があり、クラスメート全員が教室の前で固まっている私をじっとみつめていた。黄色い髪の毛に緑色の目。チリチリの髪の毛に黒い肌。戸惑いながら私は素早く自分と同じ黒い髪と茶色い目の子供たちを探し、数人見つけたら、今度は日本人でありそうな子をすぐさま探した。そんな中、担任の先生は私の手をとり、にこりと笑って、クラスメートの近くまで連れて行ってくれた。みんな私のことを見つめたまま微動だにせずにいた。「ほら、みんな自己紹介しましょう」と先生が促してもしばらく沈黙が生じた。すると、一人の女の子が、「私の名前はアイリーン」と恥ずかしそうに小声で言った。「アイリーン?変な名前」私は即座にこう思った。
最初の数週間は私とクラスメートたちはお互い心を開けなかった。英語が話せない私はからかわれたり、お昼の時間は母が作ってくれたおにぎり弁当を見て、気持ち悪そうな顔をされた。私も自分と外見や話す言葉が違うクラスメートを警戒し、恐れていた。ある夜、「もう、幼稚園に行きたくない!」と泣きじゃくっている私に母が一冊の本を読み聞かせてくれた。「ゴリラのパン屋さん」という絵本だった。ゴリラさんは新しくパン屋さんを開き、森の動物たちにパンを焼いていた。しかし、その怖そうな大きな体と声を動物たちは恐れ、みんなパンを買いに行かなかった。ある日、ゴリラさんの優しい心に気づいた動物たちはゴリラさんと仲良くなり、パンをみんなで食べてお話は終わった。本を閉じて母はこう言った。「人の外見は目に見えても、心の中は目には見えないよね」と。一冊の本と母の一言で私は変わった。次の朝、私は笑顔でアイリーンに挨拶をしてみた。彼女もにこりと笑った。他のクラスメートとも身振り手振りで会話をした。言葉はあまり通じないけれど、なぜだか面白くてみんなで大笑いした。「人の外見は目に見えても、心の中は目には見えない」母の言葉は本当だった。髪の毛の色、目の色、肌の色、話せる言葉、信じる宗教、一人一人違ってもみんな優しい心の持ち主だった。
世界にはさまざまな人がいる。見かけや話せる言語、信じる宗教など人それぞれだ。一人一人個性がある。それなのに、人間は目に見える部分で他人を評価しがちだ。自分の仲間を探し求め、自分とは違う者を仲間外れにし、警戒心を抱く。世界で今現在起こっている争いや差別もお互いの違う部分を受けいれることができないことが原点なのではないのか。だからこそ、これから世界を担っていく子供たちに教えていく必要がある。みんな違って、みんな良い、ということを。マララさんが世界に訴えた通り、教育は平和への第一歩だ。私もあの一冊の本と母の言葉がなかったら、異文化の中で楽しい生活を送ることができなかっただろう。私は将来、国連で働きたい。世界中の子供たちが教育を受けられるよう、そしてそれが世界平和へつながるよう、世界を舞台に活躍したい。世界には自分と違う人々がたくさんいるということ、そして他人と手を繋ぎ、お互いの違う部分を尊重し合うことの大切さを伝えたい。それが恵まれた環境で育ち、異文化の中で学んだ私の使命だと思うから。私にとって仕事とは、自分の使命を果たし、自分より先に他人のことを考え、人の役に立つこと。平和のもととなる球根は世界中に埋まっている。世界中の人々が優しさの溢れる心で手を取り合い、少しづつお水をあげていったら、やがて小さな芽が出で、美しい平和のお花が満開になるだろう。