【 入 選 】
家に帰れば両親がいる。朝に学校へ行くときも、夕方学校から帰るときも、夜遅く塾から帰るときも、必ず親が家にいる。この、一見異常に思える事態が、私にとっては日常だ。
両親は家で自営業をしている。父はデザイナー、母は法律家、という、珍しいタイプの共働きだ。自営業は金銭的にキツい、国は何も自営業のことを考えていない、と母はしばしば嘆く。正直なところ、実際に裕福な生活ができているわけではない。お小遣いはないし、家も狭い。
しかし、とても恵まれていると思うことがある。両親共働きの一人っ子なのに、幼い時から一度も「独り」というものを経験したことがない、ということだ。忙しい両親が時間を割いてくれたおかげで、幼い頃からゲームやテレビにハマる、ということはなかった。英語の歌やジグソーパズル、キャッチボールで遊んでくれて、ピアノとギターの合奏をしてくれたことは、私がいろいろなことに興味を持ち、多方面にわたって活躍できるきっかけとなった。そのおかげで、メールやラインには疎いものの友達は多く、ピアノや陸上、そして勉強においても満足できる結果を残してきた。
一生懸命勉強する、そのモチベーションになっているのは、将来の夢だ。私は法律と政治の道に進もうと思っている。バリバリのキャリアウーマンになりたいのだ。母のようにスーツでビシッとキメて、タブレットを片手に電話に対応する、そんな姿に憧れる。でも一つだけ、どんな仕事をしていても守りたいことがある。それは、「絶対に、子どもと一緒にいる時間を、仕事に食われない」こと。遠い未来の話になるが、私の子どもには、私のように育ってほしい。
こう書くと語弊があるかもしれないが、私は、自分が成功例だとか、みんなの見本のような存在だとか、そのようなおこがましいことを言っているわけではない。ただ、親にたくさん愛情を注いでもらって、いろんな世界への扉を開いてもらって、自分の好きなことを見つけられている今の私は、この上なく楽しい毎日を送っている。
しかし一方で、新聞を開くと残虐な事件が多数目につく。幼い頃の親からの愛情不足、ゲームやアニメでの暴力シーンの影響が大人になってから出てくる、というのは少なくないようだ。
親が子どもに時間を割くこと。これは簡単なことではない。そして、子育てを優先させない労働環境が、多少の改善がなされているとはいえ根強く残る。長時間労働や産休、育休を取りづらい雰囲気は、深刻視されている。
私が政治家になりたいと思っているのは、この状況をなんとかしたいからだ。女性だけでなく、男性も育児に携わってほしい。また、子どもとの時間を過ごしたい、という想いを実現したい。親が仕事をしている、という理由で「独り」になってしまう子どもたちを増やしたくない。
親が私にたくさん関わってくれたことで、私は親を嫌いになることはなく、反抗期を迎えることもなかった。反抗期というのは、ただストレスが溜まるとか親が可哀想とかいう話ではなく、愛情が注がれていないと感じたがゆえの家庭内暴力やその延長である犯罪行為に繋がりうる深刻な問題である。仕事によって社会に貢献しているはずの人々が、社会を壊す一因を作り出し得るこの状況は見るに堪えない。
「経済的に苦しく、子どもに時間を割いてられない。まずはお金だ。」。そういう意見は多数ある。そして、そう言う大人たちの、やるせない心中も察することができる。親以上に、そうさせている環境のほうに問題があると私は思う。
幸運なことに、私は親と一緒に多くの時間を過ごしてきた。必死に働く姿も見てきたし、音楽やスポーツも楽しんだ。そして、子育てと仕事の両立の大変さを誰よりも近くで見てきた。
自分の環境に感謝し、「独り」になる子どもたちが少しでも減るように力になりたいと思う。