【 努力賞 】
【 テーマ:仕事を通じて実現したい夢】
世界に拡がる学びの輪
岡山県  藤 井 通 子 79歳

 「少年は必要とされてはじめて大人になる」これはノーベル賞を受賞したアメリカの文学者スタインベックの言葉です。働くことが人間の成長にとってどのように大きな意味を持つのか考えさせられます。私が歩んできた道をふり返り乍ら、働くこと、本当の幸福とは何かを考えてみたいと思います。私は主婦として母として職業人として、又ボランティア活動を続け乍ら大変多忙な毎日を過し今日に至りました。多くの素晴しい子供達、多くの人々の出会いを通じ私が教えることよりはるかに沢山の事を学ばせて頂き、感謝の念で一杯です。互いに心を寄せあい心は一本の線となり、やがて美しい輪へと変化していくそのプロセスの中で、互いに学びあい乍ら育てられていくことを強く感じています。

 ボランティア活動をはじめたのは私の人生の中で最も忙しかった四十代半ばのことです。当時の日本は今とちがって物の豊かな時代でなく、すべての子供達がいつでもどこでも学べる時代ではありませんでした。家庭の事情で進学出来ない子供達や身体の不自由な子供達、何らかの事情で学びたくても進学の機会を失っている人達のことを私は知っていました。朝早くから登校前に働いている子供、家業を必死で手伝っている子供、まだうす暗い朝、配達の合間にポケットから単語帳を取り出し電信柱の下で光を求め暗記しながら寸暇を惜しんで学んでいた子供。何と素晴らしい子供達なんでしょう。社会の格差をいやという程感じ乍ら過していた子供達の姿を私は知っていました。教職の経験を活かしせめて私の自由な時間、土曜、日曜の午後だけでも何か学べる時間と場所をと、ずっと心の中で温めていた事を「すぐにはじめよう」と心に誓いました。私のボランティア活動の第一歩がはじまりました。ひたむきに頑張っている子供達そして文化の乏しい地域の子供達に「世界の中の自分」を感じてもらいたかったのです。

 我が家の離れを解放し、机や椅子を入れた小さな小さな学びの場です。年間計画、学習の下調べ、講演会の事等目まぐるしい毎日がはじまりました。自由に誰でも学べるきっかけとなる場所を目ざし「何かがはじまる」と新しい希望で忙しさはふき飛んで行きました。

子供達はあちらからも、こちらからも集まり日頃学べない子供達ばかりでなく、地域の子供達やお母様方も集まって来るようになりました。

 各国から訪れていた留学生達も自分達も力になりたいと協力してくれるようになり、益々子供達は新しい世界へ目を開くきっかけになりました。やがて我が家では狭くなり別の会場や公民館を利用させて頂くことにまで発展して行きました。文化の乏しい小さな地域から中央へ、中央から世界に発信し又、世界から情報を享受するその架け橋になろうと心に誓いました。世界の国々の様子、食べるものも不足し飢餓で苦しんでいる人々、貧しく心常に希望を失わずひたむきに働いている人々、使命感を持って一生懸命生きている人々の事を知る機会に出会った子供達は、自分の生き方や役割を少しづつ考えていくようになりました。「世界の中の自分の存在」を意識しはじめ成長する姿を見ることは私の大きな喜びでした。「僕もがんばるよ」と力強く云った子供達の声が何より私の励みとなりました。

 あれから永い年月が経ちました。それぞれ立派に成長し社会で活躍している様子に胸が一杯になります。私はもうすぐ80才。現在も若い人達や留学生のためのボランティア活動をしています。新しい未来を造る人達に少しでもお手伝いが出来ればそれだけで幸せです。どんな困難な道もずっと求め続けていれば、すべての事柄は「学びの対象」となり「学びへの道」へと通じることを強く感じます。

 「少年は必要とされてはじめて大人になる」今一度この深い意味をかみしめ乍ら、若い人達が働くことを通し役割を見つけ「世界に拡がる学びの輪」が大きく大きく拡がっていくことを心から願っています。

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