【 努力賞 】
【 テーマ:仕事を通じて実現したい夢】
「誰かの役に立ち、誰かが喜び、

誰かが助かっている」を

宮城県  東 方 晴 彦 74歳

「老人になれば誰にでも出るよ」数年前、左側頭部に小さな突起物ができた私に周囲が異口同音に言う。中には「出もの腫れものは所嫌わず出る」なんて揶揄する者までいた。

 しかし最初は米粒ほどの大きさだったのが赤紫色に変色し大豆ぐらいまで拡大した。不安になった私は昨年の2月、意を決し総合病院で受診。診断の出るまでの2週間は不安で食事も満足に摂れない日々だった。「病名は皮膚腫瘍。耳の近くは血管が集中し難しい手術です。入院の手続きやその他の細かい事は担当の看護師から別室で聞いて下さい」と。

 恥ずかしい話だが手術と聞いて震え上がってしまった。彼女は幼稚で愚かな質問を繰り返す私に始終笑顔を絶やさず、優しくまるで子どもをあやすかのように説明してくれた。

「Mさん、何も心配要りませんよ。手術ですから痛みは当然あります。でも人によって痛さの感じ方は違うし今は怖いより治す方が先です。すぐ終わると思えば。」言葉の一つ一つが臆病な患者の緊張を解きほぐし、どれほど勇気を与えてくれた事か。多くの人は腫瘍と聞いただけで落胆し、癌を連想して絶望感に陥ってしまう。それだけに看護師の果たす役割は大きい。手術には2時間も要した。

 その間、コチコチの患者を絶えず優しい言葉で励まし、その上自身は医師の指示に従ってテキパキと仕事を遂行した。「済みましたよMさん。頑張りましたね」

 手術は無事終了。今回の疾病で医師や看護師を始め、病院で働く多くの人々に助けて貰った。エコー検査やCT、MRIの担当者。痛み止めや化膿防止で苦痛を和らげてくれた薬剤師。調理や配膳に携わる厨房関係者。清潔で明るい院内。ごみ一つ落ちてない。特筆すべきはトイレ。隅々まで掃除が行き届き快適な使用感が嬉しい。窓から見える美しい芝生や花壇の草花。心が癒されてくる。細心の注意で剃髪してくれた理容師。本当に有難かった。目に見えない分野で働く人々。みんな仕事に使命感をもって働いている。人間は一人の力だけでは限界があり、互いに助け合ってこそ職場が維持される事を実感した。

 術後の経過も良く細検の結果は良性。癌の心配も消えて生まれ変わった気分が湧いて来る。「病巣が浅いうちに摘出できたのは早期発見のお蔭です。」後日、執刀した医師から告げられた。帰り際に「Mさんにはこちらからもお礼を言います。現在、この科にSという看護師が働いています。聞けばMさんは恩師とか。とても一生懸命で将来はきっと良い看護師になってくれるでしょう。いま呼びますから」と言う。程なく現れたS。僅かに面影を残すものの凛とした顔に白衣姿のSを見て、私は内心大きな感動と誇りを覚えた。「在学中進路で迷っていたとき先生に相談して、やっと自分の進む道が決まりました、ナイチンゲールの話。自分は何ができるのか、何をすべきか等を教えて頂きました。今この仕事を選んで本当に良かったと感謝しています」と。看護師は慈愛に満ちた仕事。病気で苦しむ人々の力になり、患者から信頼される優しい看護師になって欲しいと願っている。

 夢を叶えたS――。しかしどんな仕事にも一長一短がある。元よりこの世に楽な仕事なんてあるはずがない。前途には様々な難問が待ち構えているだろう。信念と勇気。若さで克服して欲しい。現在も教鞭をとり続けている私だが、微力ではあるが、仕事を通じて働く事の意義、責任、尊さ等を今後も指導して行きたい。仕事を得れば新たな人との交流が拡がり喜びや幸せの機会が醸成される。

――働くってなんだろう。「みんなちがって、みんないい」金子みすずの言葉だ。たとえどんな職種でも一つの仕事をなし遂げれば誰かの役に立ち、誰かが喜び、誰かが助かっている。働く事の素晴らしさを肌で感じて欲しい。ささやかでも人々に役立てる人間を一人でも多く育てたい。働く仕事がないことは淋しいしそんな若者を作りたくないからだ。

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