「生徒にとって、就職は一生の大事です。そうした場面に関わることができるなんて、これ以上やりがいのある仕事が他にあるでしょうか?」東京都立職業能力開発センターの就職支援職の面接で、応募理由を聞かれた場面だ。私はいかに素晴らしい仕事なのか、採用面接者に対し、逆に問いかけた。
民間会社を定年退職した後、運よく神奈川県立高校で進路指導、横浜市役所で就労支援を経験できた。すでに65歳。年齢的にも新たな応募は無理かな、と思いながら、ふと通りかかったハローワークでその求人票を見つけた。あまりにも高い応募倍率だった。だが、驚くと同時に、なぜか血が騒いだ。そして、正夢となる。高齢に加えて特別のコネもない私に、何と採用通知が届いたのだ。
民間会社では主に飛行訓練装置の技術開発に従事してきた。そんな私がどうして就職支援の仕事をするようになったのか。「考え方の論文を発表してこそ一流の技術者だ」と、入社当初に日系アメリカ人の技術マネジャーから叩き込まれたことが幸運をもたらしたかも知れない。残念ながら一流技術者にはなれなかったが、考え方の技術論文だけはせっせと書き続けた。そのおかげもあって、生徒達の思いを表現した志望動機や自己PRに対し、「私ならこう書くが」とその場での添削ができるようになったのだから。
「働くことで何を学んだか?」と問われたら、「やりがいのある仕事に挑戦する喜び」と答えたい。今の就職支援の仕事がまさにそれだ。相手の最高の笑顔が見られ、わくわくしながら仕事ができているからで、やりがいを通り越して生き甲斐の心境と言っていい。
就職支援は職人技で料理つくりに似ている。就職支援では応募者に合った就職先選び、応募書類の仕上げ、面接リハーサルが求められる。他方、料理の場合は、メニューを決め、旬の食材を選び、腕によりをかける調理技術が不可欠だ。どちらも、その先に相手の笑顔が待っている。就職支援ならではの面白さもある。求人側が求める職務や資質に対し、応募者の人間力、職務への取り組み姿勢、職業スキルがどうか、いわば多次元連立方程式を瞬時に解かなければならない。新雪にシュプールを描くようなもので、これほど脳細胞を刺激する仕事はめったにない。
今、やりがいのある仕事に就けていることに改めて感謝したい。東京都が雇用への完全年齢不問を貫いていることにも敬服する。いや、すべての企業がこうあって欲しい。もはや仕事選びを年齢や性別、学歴で差別する時代ではない。仕事への情熱と、遂行できる能力・体力があれば、誰でもが望む職に応募でき、公正な基準で採用が決まったあかつきには思い切り力を発揮できる。そうした仕組みが当たり前になればいいのに、と切に願う。
最後に、仕事を模索している若者ヘエールを送りたい。仕事に就くことは人生の一大イベントである。人生設計の基盤ともなる。なぜ、その仕事を志望したか、その仕事にどう取り組むか、そうした自分の思いを膨らませ、本当にやりがいのある仕事に就こうではないか。そして、バラ色の人生を謳歌しようではないか。君の輝ける将来に乾杯!