高校2年生の夏、あなたは交通事故にあい、顔に残った傷と、度々起こる事故のフラッシュバックで、高校へ通えなくなった。ひきこもってしまったあの時、正直これからこの子の未来はどうなるんだろうと心配した。でもあなたは単位切れ寸前のある日、ひょっこり部屋から出てきて、だるそうに台所の椅子によりかかり、将来への不安、抑うつ、外に出ることが怖い、ひとと会いたくない。頭がもやもやして考えがまとまらない……とめどなく、ありとあらゆる苦しさを正直に、はき出してくれた。
その後、あなたは通信制高校へ転校して、ほとんどひとに会わずじまいに卒業。進路先に選んだのは美容専門学校で、久しぶりの学校だとはりきっていたけど、たった3か月でひととうまく交流できずまたひきこもり。ひとを避けるように、夜間の通信制に通いながら時々、通学に疲れては休学して、土木建築の仕事、引越しの助手、飲食店で働いた。あなたにとって働くことは本当に、じぶん回復のためだったと思う。面接のたびにちゃんとネクタイをしめ、スーツを着て出向く姿を見て、わたしはいつもうれしかった。「迷惑かけてるから」と、日当をそのまま手渡してくれる時もあり、ある節目まで回復すると、あなたはまた、「そろそろ学校へ行く」と言い残し、ある日すっとアパートへ戻っていく。
でも卒業寸前にクライシス。もう学校をやめる。いいことひとつもない。「死にたい」と電話をしてきた時、わたしはただ黙って聞くしかなかった。でも本当はドキドキしていたんだけどね。聞けばすでに全単位を取得していて、あとは国家試験を受けるだけ。あなたは、「もうどうでもいい。受けないと思う」と力なかった。「好きにしていいよ」とわたしは答えた。でもあなたは結局じぶんで決めて、国家試験を受験、合格できた。やれやれひと安心。それも束の間、「ごめん。やっぱ対人関係に自信がもてない。求職者支援制度でパソコン習う。WEBデザイナーになる」とメールをよこしてきた。あまり驚かなかった。「それもいいかも」と思って、「わかった。がんばれ」返信した。もうドキドキしなかった。
あなたはいつもまじめにじぶんと向き合っている。弱いじぶんからは速攻逃げ出し、ちょっと自信回復したら半歩か一歩、前へ進む。そうやって後退と見せかけといて、次にはぐんっと先を行く。その節目節目に、必ず働いている。働きながら、自信を回復していっている。働くことはあなたにとって、本当に悪くない回復過程だ。そのぶん、ひとより余計に時間がかかるけれど、でもその過程で学ぶものは予定調和の人生より、きっと濃くて貴いはず。
生き方はひとつじゃないし、ひとの数ほど正解がある。だからあなたもあなたが辿る回復の道は、いつだって正解だ。あなたらしくあれば、それでいいじゃない。
21歳。これからこれから。