「なりたいものなんてないんだよね」
と言ったのは就活中の息子だった。
私には、2人の子どもがいる。いろいろあって、兄が妹と一緒に現在就活をしている。妹は、早くからなりたいものが明確でそれに向かって突き進んでいる。息子はというと、志望大学に入学できなかった頃から目的を失くしたのか、諦めたのか仕事に対しての意欲が全くなくなっている。あげくに言ったことが、
「ねえ、ぼく何の仕事したらいいかな?」
「やりたいことはないの?」
「これと言ってないんだよね。あーでも楽な仕事がいいかな」
我が息子ながら、開いた口が塞がらなかった。友人のお子さんが、大手の会社に就職したり、公務員になったりするのを羨望の眼差しで見ている。どうしてうちの子は……と悩むことしきり。友人たちに愚痴をこぼすと決まって言われることが「育てたように育つ」で、何がいけなかったのか自分の子育てを振り返っては悔やむことばかりである。
娘に、お兄ちゃんはなりたいものがないんだって、なんでだろうね、と嘆いてみたら、「結構いるよ。そういう人、私の周りにも」と返って来た。どうも、最近よく使われている「ゆとり世代」という子どもたちだからなのか?十把ひとからげにするわけではないが、周りを見るとこの世代の子どもたちは指示待ち人間が多いと耳にする。
以前見たテレビの街頭インタビュー。
「将来の夢はなんですか?」
という問いかけに若者たちが答えたこと。
「夢?ないなー。今の世の中に希望なんて持てないから夢なんてないよ」
と、いうようなことを言っていた。確かに、就労問題、年金問題、子育て問題、難しいことが山積みある。そんな中でも、夢や希望に向かって黙々と歩み続けている者もいるわけで、息子や街頭インタビューに答えていた若者たちには一日でも早く、なりたいものを見つけてほしいと願っている。
先日、娘が行った会社説明会での話。
「お母さん、今日行った会社の社長さんが面白かったよ」
「今日ここに来た君たちは、将来の希望にうちの会社、もしくは関連した企業を書いた者はいるか、いないだろう?ほとんどの者が違う夢を書いていただろう。それなら、どうして今日ここへ来たんだ?幼い頃に見た夢をなぜ追わないんだ?今からでも遅くはないんだぞ。昔描いた夢を追ってみよう……」
自分の会社に来た若者に、
「うちでいいのか?」なんて聞く社長さんがいるなんて変わっている。本当に面白い社長さんだなって。
息子の小学校や中学校の卒業文集には確かに将来の夢が書かれていた。成長するにつれて幼いときに見た夢が変わってしまうことは当たり前なのかもしれない。それでも変化しつつもその時々の目標を持って、それに向かうことを忘れないでほしいと願う。同時に世の中がもっともっと若者に夢や希望を与えられるような社会になることも。