仕事に就いて30年が過ぎた。私は中学校で教師をしている。先日、中学生を対象にした「男女共同参画」についての講演を聴く機会があったが、そこでいただいた資料の統計を見て、女性が働くことについて改めて考えさせられた。ご存じの方も多いだろうが、「年代別に見た働く女性の割合」は30〜40代前半が少ないM字型。これは、出産を機に仕事を辞める女性の多さを表している。また、「夫婦の家事関連時間」を諸外国と比べてみると、世界の中でも日本の男性が家事に関わる時間は少ない。
その中で今回私が注目したのは「週60時間以上働く」という男性が30〜49歳のうち実に18%以上もいたことだった。同世代の女性では4〜5%だ。これは、結婚や出産を機に働き方を変えざるを得なかった女性が多いことを物語っているのだと思う。
正社員として働くことが、残業を前提として成り立っているのだとしたら、育児をする女性にはハードルが高すぎる。(そもそも育児は女性だけが行うものではないが)
ネットニュースで教員の時間外勤務についての記事を読んだ。部活動をもっている教師の中には、休日が取れないほど時間を費やしている方も多く、文科省は中学校では週二日の休養日を設けることを考えているようだ。
私が育休を終え仕事に復帰した頃、思うように働くことができないと嘆いていると、年配の先生からこう声をかけられた。
「今は育児が大事。お母さんは一人しかいないのだから。仕事は代わりがいる。困ったときにはお互い様。今あなたがお世話になった分は、次の世代に返してあげればいい」
ありがたかった。この言葉に救われた気がした。とはいうものの、教員の仕事は多い。連日七時までの延長保育を利用しても、お迎えに間に合うように職場を出ているようでは仕事はとうてい終わらない。
子どもと一緒にスーパーに寄り、帰宅。すぐに夕食の準備。風呂に入れて寝かしつける。この間、夫はいない。民間企業の営業職のため、帰宅は早くても毎日10時前だ。
夫が遅い夕食をとり、洗濯物を干してくれる。私の仕事時間が始まる。授業の予習に教材準備。テストの作成と採点。途中仮眠を取りながら、明け方までかかることもある。夫の休日は平日で、土日も仕事でいない。その時は、たまたま部活動の指導がないことだけが幸いだった。昨今は全員顧問制をとる学校も多くなった。それでも、メインで顧問をもち、専門的な指導をするのとサポート的な役割をするのとでは負担が違う。私は学生時代運動部にいた経験がないため、運動部の顧問をメインで指導をすることはまずなかったが、それでも毎週のように部活動でで休日がすべて埋まってしまうのには辛いものがあった。
子どもが大学に進学し、親元を離れたのを機に、私は仕事を家に持ち帰らないことにした。今の職場に異動してからは、主任などもさせていただいた。仕事はやりがいがあったが、残業と休日出勤を繰り返さなければこなせないことも多かった。
「このままでは鬱になって自殺してしまう」
冗談めかして周囲に漏らしてみたが、かなり精神的に追い詰められてたときもある。
「ワークライフバランス」という言葉がある。仕事と生活の両方をバランスよく充実させようということだろう。しかし、どんなに法を整えてみても、一人一人の意識と働き方が変わらない限り子育てしやすい環境にはならない。残業や休日出勤ありきの職場では、結婚して仕事と子育てを両立させる未来像は見えてこない。個々の事情に応じた働き方ができるよう環境を整えるとともに、私達一人一人の意識も変えなくてはならない。
今回の話で、生徒たちの心には何が残っただろう。夢を叶え、仕事をしている方の話を聞いて、どんな未来が見えてきただろう。私は彼らが自己実現できる未来を願った。