【 努力賞 】
【 テーマ:多様な働き方への提言】
自分に合った働き方
東京都  ホタテ 49歳

私の父は大学を出て、入社した会社で定年まで働いた。終身雇用が当たり前の時代であった。子どもながら私も仕事というのはそういうものだと思っていた。フルタイムで一生同じ会社で働くべきだと思っていた。

 そんな私だったが、社会に出てから十年間あまり、何度も転職した。親から「いつまでフラフラしているんだ」と責められ、自分自身も「フルタイムでずっと働くべきなのに、自分は何をしてるのか」と落ち込む日々だった。辞めてしまう理由、それは自分でもよくわからなかった。 

 30歳を目前にして私は改めて考えた。長所短所合わせて自分に向き合ってみた。

 自問自答を続けるうちに「仕事は好きだが、飽きっぽい」という自分の性格が見えてきた。そしてまた考えた。

「では、飽きないためにはどうすればよいか」

答えはすぐには出なかった。

家でひとり、考え込んでは落ち込む。自信が持てないから、仕事探しにも前向きになれない。自分は社会から必要とされてないように思って悲しかった。絵に描いたような悪循環だ。これを一旦断ち切るには、無駄なことを考えるすきを与えない、これしかない。重苦しい気持ちの中で私は思った。

 まず、つべこべ言わず、私は働こうと思った。求人誌で見つけたパン屋のアルバイト週三回。パン屋の朝は早い。無職の頃はだらだらして、ついつい夜型生活だったが、アルバイトを始めてからは自然と早寝早起きになった。お店にいる間は販売の他、パンの補充や、トレイの整理など、お客さんがいないうちにやることがたくさんある。一日の仕事を終え、家についた時にはクタクタだった。体が疲れているのでよく眠れる。そして、「仕事」「休み」というメリハリがついたことにより、少しの時間も無駄にしないようになった。気がつくとだんだん気持ちも前向きになっていった。何よりも働くことで「自分が役に立っている」という実感を持てたことは大きい。無職の間、自分は役に立たない人間のように思えて辛かったから、とてもうれしかった。

 少し気持ちに余裕が出来て、フルタイムの仕事を探そうか、どうしようかと思い始めたころ、知り合いから誘いがあった。子どもの絵画教室の先生のアルバイトの話だった。週二回だという。絵画教室といっても本格的なものではなく、子どもたちが気軽にお絵描きを楽しめるようなものらしい。以前だったら、仕事はフルタイムであるべき、と断っていたかもしれない。しかし、この時の私はフルタイムにこだわらず、考えすぎず、まずは受けてみようと思った。パン屋での経験が私をそういう気持ちにさせたのだと思う。

 面接に合格した私はパン屋と絵画教室を掛け持ちすることになった。二つの全く違う仕事は飽きっぽい私に飽きるひまを与えなかった。この組み合わせが幸いしたのだろう。気持ちが切り替わることで快適に長い期間仕事を続けることが出来た。それまでの私は「仕事はフルタイムであるべき」と思い込んで、フルタイムという型にはまれない自分がいけないのだと思ってきた。でも仕事というのはスタイルが重要なのではない。働き方というのは人それぞれ違っていいのだと気がついた。

自分に向いている形で自分が出来ることをやるのがいちばんなのだ。今ではそう思っている。

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