【 努力賞 】
【 テーマ:働くこと・職探しを通じて学んだこと】
やりがいのない仕事
フランス  ルバイ 節 江 49歳

「本当にそんな仕事でいいの?」

フランス人の友人は、私がようやくこの地で見つけた仕事の内容を知ると、眉をひそめました。

 私の仕事は「キャンプ場の掃除」。

就職難で失業者数が増加する一方のこの国で、つたないフランス語しか話すことができない私が、仕事をいただけたのはありがたいことだと、私自身は満足していたのですが、そんな私に友人はこう続けました。

「フランスでは、掃除は“やりがいのない仕事”と言われているのよ。」と。

資格社会のフランスでは、どのような仕事も「資格の有無」を問われます。

しかし、掃除は、何の知識も資格も必要ないことから、「能力のない人のする仕事」とみなされています。また、階級意識が根強く残っているこの国では、掃除は下級層の人々の仕事とされており、掃除の仕事をすることを恥じ、絶対に受け入れない人もいます。そのようなことを知りつつも、私は、自分の住む町で働き、地域に貢献できることを、とても嬉しく、誇りにさえ感じていました。

こうして始まった仕事は、簡単な説明の後、、「それじゃよろしく」と初日からいきなりひとりで任されました。初日からひとりで仕事なんて、それだけ掃除の仕事は「誰でもできる」、「特に技術もいらない仕事」と思われているのだと感じました。実際に、一人で難なくできてしまう仕事は、早々に終わり、勤務終了まで時間を持て余すこともありましたが、「それなら」と、毎日「扉」や「床」などひとつテーマを決めて、特に念入りに綺麗にするようにしました。すると、絶えずどこかでゴシゴシ磨いている私を見て、「頑張って」、「ありがとう」、「ブラボー」と声を掛けてくれる人が何人も現れるようになりました。

特に印象的だったのは、最初、私に、「たかが掃除でそこまでするなんて無駄よ。私は、こんな仕事したくない。」と面と向かって言い放った婦人が、次第に、私が掃除した後のトイレを汚さないように注意を払うようになり、ついには、「ボンジュール」と言ってハグをするようになったことです。

辛口な意見を言う婦人が、掃除中の決して綺麗とは言えない私をハグしてくれた時は、見えない勲章をいただいたようで、とても嬉しかったです。

 基本的に、仕事中は無言で黙々と働いていますが、お客さんには、できるだけ挨拶や声掛けをするようにしています。すると、中には、フランス国外、特にドイツやオランダから訪れているお客さんが多いことに気付きました。そこで、フランス国外から来られた方には、その国の言葉で挨拶をしようと、英語だけでなく、ドイツ語、オランダ語の挨拶や簡単な会話を学びました。

こうして掃除をしながらいろんな国の人と言葉を交わし、家で「今日はイギリスからのお客さんと英語で盛り上がったよ。」、「今日はドイツ人親子と知り合いになったよ。」と話をすると、娘が「なんで掃除の仕事で英語やドイツ語使うの?普通いらないよね?」と不思議そうに聞いてきました。たしかに、普通はそうかもしれません。しかし、取り組み方次第で、掃除の仕事でも、国際交流の場にすることができるのです。

掃除はたしかに資格も技術もいらない仕事かもしれません。汚いものを扱う嫌な仕事かもしれません。

しかし、掃除はやりがいのない仕事ではなく、自分次第でやりがいを見つけることができる仕事だと思います。なんて、こんなところで私一人が声をあげても、フランスに根付いた掃除に対する偏見はそう簡単には変わりません。ただ、私の働く姿を見ている子供たちが、「ママは、本当に楽しそうに掃除の仕事をしてるな」と感じてくれたらいいと思います。

キャンプ場を後にするお客さんからいただいた一言

「来年もまたここに来ます。だからあなたも来年もここで働いていてください」

この言葉は私の心の中で、ピカピカと輝いています。

 私は私なりの「やりがい」を見つけて、この仕事を続けていきたいです。

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