【 努力賞 】
【 テーマ:働くこと・職探しを通じて学んだこと】
役たたず
広島県  まーちゃん 43歳

はっきり言って、思い出したくもない事がある。私が働いていたのは、一部上場企業、その製品の名前をあげたら多分誰もが知っている会社だ。そこに、嘱託社員とはいえ、入社出来たのはラッキーだったなと思った。中途失聴の私は、社会の厳しさ、健常者の目の厳しさというものを全然知らなかったので、その程度の感想しか、最初はもっていなかった。

私に割り当てられた仕事は、総務部の雑用。何でも屋というところだ。でも、特別何かの能力があったわけではないし、その程度の簡単な仕事で給料がもらえるのなら、幸運だと思っていた。

会社に大きな花束が届いて、花瓶にさしておいてと先輩女性から言われた時も、はいと素直にうなずいた。

私はほとんど聞こえなかったので、ほぼ読唇術で会話をしていた。読み間違える事もあったが、そこは理解してもらえていると勝手に思い込んでいた。

ところで、その花束だが、松の木も使われていて花ばさみを使っても、切りそろえるのが困難だった。事務仕事も残っていたので、気もそぞろだった私も悪かった。気がついた時には松の木と一緒に自分の指も切ってしまっていた。かなり深く切ったので、血がドクドクとあふれた。

「すみません、怪我しちゃいました」

と、社内に戻ると、先輩達も出血量に慌てた。部長から、すぐさま病院に行くように言われて、近所の外科に行き縫う事になった。

会計の時、「就業時間内の事故ですから、労災にしておきますね」と言われて、ぼんやりと「はい」と答えた。

後日、課長から雷を落とされた。

「自分のミスでやった怪我で労災を使うなんて、何を考えてるんだ。会社に迷惑をかける気か!?」

と言われて、首をすくめた。こんなに大事になるとは思わなかったのだ。

「すみません、すぐに病院に行って、労災ではなく健康保険を使うようにします」

「何言ってるんだ、今からそんな事をしたら、会社に言われて取り消しにきたと思われるだろ!」

と、さらに怒られた。

「労災って使ったらいけなかったんですね…」

怒られた後、先輩女性に相談した。

「あなた、重度障害者で、医療費控除も出来るんでしょう?せっかく障害者なんだから、それを使えばいいのに」

「すみません、病院の方から労災ていいですかと聞かれた時、深く考えていなくて…」

と、しょんぼりすると先輩がため息をついた。

「空気読めてないよね。あなた、周りに迷惑をかけている自覚が全くないものね。大して使えないのに、権利ばかり主張してくるんだから…自分の立場を良く考えなさいね。…まぁ、聞こえてないから、一般常識にかけているのは仕方ないのかなぁ…」

聞こえてないと思ったのか、途中からは一人事のようだった。それともそう装っただけだろうか。

どちらにしても、私はかなりショックだった。

そんなふうに思われていたのか…。

しかし、教えてくれただけ感謝すべきだとも今なら思う。

自分なりに仕事は出来ていたと思っていたのだが、やはり自分なりだったのだ。

周囲の目から見れば、ほとんど役にたっていないも同然だったのだろう。

その後、自分から仕事をまわしてもらうよう部長に伝えた。

自分なりではダメなのだ。さらに一段上がって普通なのだ。

思い出したくない思い出だが、私がそこそこの社会人になれたのは、間違いなくその会社にいたからだと思う。

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