レストランのパートを始めて三年。私は主に、お客様を案内して注文を取る仕事をしている。「お子様のお冷は、氷なしにしますか?」「パフェのスプーンは、二本お付けしたほうがよろしいですか?」「そうですね。ありがとうございます」
お客様に言われる前に気遣うと、通常のサービス以上に喜ばれる。その笑顔を見るのが、私にとってこの上ないやりがいを感じる瞬間だ。「ご飯の量を減らすこともできます」「あら、じゃあそうしてちょうだい。病院で指導されてるのよ」
一歩間違えば余計なお世話になる一言も、自分の中のデータと相談しながら織りまぜていく。
毎日同じ仕事をしていれば、お客様の動きで要望を察するのは当たり前のこと。ちょっとした目線に気づき、「○○をお探しですか?」と声をかけることができる。しかし、私がまだ勉強不足かもしれないと感じるのが、“高齢のお客様への気配り”だ。親と同居していない私は、お年寄りのちょっとした困りごとに気がつきにくい。
高齢のお客様の多くは、椅子に座れるテーブル席を好む。“お座敷のほうがゆったりできるのに”初めはそう思ったが、膝を曲げるのがつらいということが、だんだんわかってきた。席は、窓際が喜ばれる。暗いとメニューが見づらいからだ。
ところが、ある日のこと。七十代くらいの女性を窓際の明るい席にご案内したところ、少し困った顔をした。「こっちに移ってもいいかしら。私、緑内障で光がまぶしいの」
そういう方もいるんだ…私は安易にいつものパターンでご案内した自分が恥ずかしくなった。
昼どきはサラリーマンが多く、スピードと手際の良さが求められる。食後のコーヒーも、早めが助かるらしい。しかし、ゆっくり楽しみたいシニアグループには、スピードは要らない。そのテーブルの空気を壊さないように、話し方もゆっくり、と心がけている。
先日、久しぶりに帰省し、七十を過ぎた両親と食事に行った。「段差、気をつけてね」「メニュー、見える?こっちにもあるよ」
今まで口にしなかった言葉が自分から出ていた。いつのまにかおじいちゃん・おばあちゃんになった両親は、食べる量も少ないし、ずいぶん時間がかかる。“年をとるって、こういうことなんだなあ……”
お客様に親の姿を重ねたり、親を見て何か気づいたり。その時に自分の中に生まれる『思いやりの気持ち』は、決して仕事のためだけではない。
世の中には様々な人がいて、相手を理解しようとすれば色んなことが見えてくる。だから、接客業は毎日が勉強。マニュアルとマニュアルの隙間を自分がどう動くか、パート従業員として、また一人の女性として、まだまだ成長していきたい。