【 努力賞 】
【 テーマ:働くこと・職探しを通じて学んだこと】
マイ・インターンシップ
大分県  高 任 霞 37歳

高校を卒業して間もない頃だ。ある日アルバイト求人誌をめくっていて、はたと手を止めた。

普通の求人広告は業務内容、時給、福利厚生といった基本情報に、会社の外観や従業員の笑顔の写真が添えられている。 どの記事も大きな違いはない。せいぜい「アットホームな雰囲気の職場です」とか「社員登用あり」と書かれたキャッチコピーが違うくらい。

その記事は目を引いた。明らかに雰囲気が違う。黒い。15かける10センチほどの枠に、隙間なくぎっしりと小さな文字が並んでいる。白地に黒い文字なのは他の記事も同じなのに、行間をぎりぎりまで詰めて改行もしないものだから、なかなかの異彩を放っていた。

なんだこれ。私は文字を読み始めた。

広告制作会社だった。納期が迫れば昼も夜もなく、休日返上もざら。クライアントとのトラブルでもあろうものなら、見積金額なんて簡単に超えてしまう。けれど超過分をもらえることなんてない。給料もそんなに出せないし、やりがいには個人差があるそうだ。 おまけに、金がないから狭い枠でなんとか目立とうとこんな文章書いてます、とまでぶちまけてしまっている。まともな求職者なら逃げ出しそうな内容なのに、語り口が軽妙なせいで悲壮感がない。

私は興味を持った。何度も読み返しているうち、この会社で働きたいとまで思い始めていた。

数日後、面接を受けた。

「実務経験がないとね」と、記事を書いた社長兼アートディレクターが言った。会社に入れば教えてもらえるくらいに思っていた私はちょっと驚いた。資格ではなく、実務経験。国やどこかの団体がやっている資格試験に受かることよりも、短時間に何を作れるかが重要らしい。要は即戦力。「お茶くみでも何でもやります」と垂れる世間知らずに、社長さんはさぞ困惑したことだろう。

「うちで雇ってあげることはできないけれど、せっかくだから作業の様子見ていく?」

見ている間社長さんは、今写真の色味を調整しているとか見やすいレイアウトの法則とか解説してくれて、楽しかった。

思えばこの日から、思いがけず私のインターンシップが始まった。

社長さんは、興味があるなら今後も遊びに来ていいよと言ってくれたのだ。ひょっとしたら社交辞令的なものだったのかもしれないけれど、つくづく世間知らずな私は真に受けて、週に一回は通った。その時私はフリーターで複数のバイトを掛け持ちしながらだったけれど、行くたびに業界裏話や失敗談を話してくれるのが嬉しくて、時間をやりくりした。同時にパソコンを触らせてもらって、使い方を覚えた。当時はパソコンもソフトも高価で、個人がプロ仕様の機材を揃えるのは大変だったから、こんなありがたいことはない。

二年くらいして、社長さんの紹介で広告会社に雇ってもらえた。それから14年、紙媒体からウェブへ守備範囲を広げながら、一貫して広告・広報の仕事をしている。

よく「人に恵まれた」という話を聞く。学生の頃は、学歴や才能に恵まれた「持っている」人が多くのコネも持っているってだけで、「持たない」私には関係ないだろうと思っていた。

案外そうでもなかった。私も人に恵まれた。今もいろんな人のご厚意に支えられている。

いつかこのご厚意を誰かに橋渡ししたい。今すぐは無理でも、まずはこうして体験をつづることはできる。特別な人じゃなくても大丈夫。思うところがあれば、とりあえず一歩。思うより世知辛いの世の中で、思った以上に手を差し伸べてもらえることもあるみたいですよ。

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