【 努力賞 】
【 テーマ:働くこと・職探しを通じて学んだこと】
ゆとり つながり 思いやり
徳島県  寺 島 幸 生 36歳

自分はいわゆる一匹狼で,加えてせっかちな性格だと思う。職場でも他人のことは全く気にせず,極力自分一人でできる仕事をやってきた。職場環境と周りの理解に恵まれてか,それで特に困ったことも今までなかった。上司もそんな自分の性格を見抜いてか,個人でできる仕事を割り振ってきたのかもしれない。また,相手を待たせるのも相手を待つのも苦手だ。他人のペースに合わせたり,周りに気を配ったりする余裕は自分にはない。自分の仕事を無難にこなすことだけを心掛けてきた。

そんな自分の転機となったのは昨年の年末,東南アジアのラオスに10日間ほど出張したときだ。同僚数人のグループで訪問して,現地の関係者と連携して業務を行う。また今後の提携を模索する。しかし,こちらは全員ラオス語が分からないし英語もそれほど話せない。現地の関係者は我々より英語が話せるようだが日本語は話せない。英語で交渉しようとするが,細かな情報やニュアンスが伝わらない。このままでは相手にあきれられるか,イライラされるだけに終わってしまう。ところがそんな心配とは逆に,ラオスの人たちは我々の不慣れな英語を待っては聞き待っては聞きしてくれる。そして自分たちの意見もゆっくりゆっくり伝えてくる。そんな相手の対応がこちらの焦りを解きほぐしていく。そうこうするうちに,だんだん相手の言葉が耳に入るようになってきた。相手の言葉も待って聞くゆとりが生まれてきた。翌日以降も一緒に仕事をする中で,次第に会話をつなげるチームワークができていく。自分が知らない単語を同僚が知っていて教えてくれたり,逆に自分が知っている単語が役に立ったりする。単語と単語が1つずつつながって文になる。文と文がつながって会話になり,会話がつながって話し合いになる。知らない単語があっても会話の文脈から次第に相手の考えを推し量ることができるようになった。

相手が何を伝えたいのか,何を望んでいるのか,また同僚は何を言いたいのか,滞在中は他人ことばかり考えていた。うまく話せなくても,仕事の中で互いに必要なものを準備したりまたは片付けたりすることが少しずつ自然にできるようになった。仕事外にも一緒に買い物や食事に出かけて談笑することもできるようになった。滞在最終日,「このつながりを持ち続けたい」お互いにそう言葉を交わして今後の業務提携を約束し帰路に就いた。今も互いに連絡を取り合い協力して仕事をしている。

ゆとりも,つながりも,思いやりも,ラオス訪問前の自分には絶対必要なものではなかった。けれども,相手の言葉を聞くゆとりが会話をつなげ,そして互いを思いやる関係へと発展した。この頃は仕事の幅が拡がりつつある。一人でする仕事だけでなく,グループで協力して行う仕事への抵抗感も薄れてきた。最近,上司に言われた。

「近頃楽しそうだね。この冬またラオスに行かないか?」

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