【 佳 作 】

【テーマ:女性として頑張りたい仕事・働き方】
「働くママ」の苦悩と決意
鳥取県 もりかわ詩歌 31歳

教師は職場結婚が多いと言うが、私も御多分に洩れず、夫との出会いは勤務先の中学校だった。27歳で妊娠・出産、長男が2歳の時に一度目の職場復帰を果たした。

公立中学校教師の仕事は、多忙を極める。

正式な勤務時間は、概ね午前8時から午後5時までだが、ほとんどの教師は、生徒を迎え入れるため七時半までには出勤する。また放課後は、最長で6時半まで毎日部活指導。その後も職員会や学年会など各種会議に追われ、午後9時を回っても職員室の明かりがついていることは珍しくない。土日とて決してフリーになるわけではなく、部活動の大会や遠征で終日潰れることさえある。

そんな中で、同業の夫と二人、懸命に長男を育てた。午前7時、まだ誰も登園していない保育所に長男を預け、迎えに行くのは延長保育ギリギリの午後7時。長男は毎日、遅番の先生と一緒に戸締りをしながら私の迎えを待っていた。駆け足で買い物を済ませ、グズる息子を傍らに夕飯の準備。夫の帰宅と同時にお風呂と夕飯を急いで済ませても、連日9時を回ってしまう日々だった。本を読んでやる暇も、話を聞いてやる時間さえ持てていなかった。ふと、「私は我が子ではなく、動物を育てているのではないか」という思いさえ過った。保育所に長男を預けた後の車の中で、溢れてくる涙を止められなかったことは一度や二度ではない。

そんな経験から、2年後に長女を出産し職場復帰する際には、迷わず育児時短勤務を希望した。未就学児を養育する者は、所属長の許可があれば、30分単位で勤務時間を短縮することができる制度だ。勤務時間が短くなるということは、即ち時間外の勤務が免除され、必然的に学級担任も部活動の顧問も受け持つことができなくなる。

限られた職員数での学校運営を任されている校長先生からは、時短勤務取得を考え直すよう打診されたが、押し切る形で許可を得た。

しかし、実際に勤務が始まると、当然の権利を行使しているにも関わらず、肩身が狭く後ろめたい思いが拭えなかった。土日を含め、連日時間外勤務を強いられる同僚の中で、毎日4時半には退勤する。職員会や学年会に出席できないため、重責のある仕事では頭数から外される。そんな日常に加え、子供が熱を出せば、遅刻・早退・欠勤もやむを得ず、周囲の負担になっていることは明白だ。表立って苦情を訴えられたことはないが、フルタイムで働く同僚とは、確かな溝を感じているのも事実だ。

一般の民間企業に比べ、公務員の育児支援制度は充実していると言えるだろう。しかし、実際それを受け入れ、共に働いていく職員の意識は、まだそこに追いついていないというのが現状なのだ。

ではこれから先、私が職場でできることは何か。

いずれ我が子は成長し、私自身フルタイムで働ける時が来る。その時、同じ職場で働く子育て中の若い職員の思いを理解し、助けになることはできないだろうか。育児と仕事の両立に悩みながら、それを乗り越えた人間にしか分からないことはたくさんある。

今はまだ、皆がある程度家庭を犠牲にし、「私たちも通ってきた道なのだから」と、それを下の世代にも求める風潮にある。しかしそれでは一向に、少子化に歯止めを掛けることと、女性の社会進出の両立は叶わない。「子育てのために、職務を軽減される時期がある」。このことが、制度ではなく、職員の意識のレベルで当たり前になること。私は、先駆けて育児支援制度を取得させてもらった人間として、その架け橋になりたいと考えている。

子育て中の今は、同僚に迷惑や負担を掛けることがあっても、辞めずに続けることで、いつか恩返しできるチャンスがある。そんな風に考え、育児と仕事に邁進する日々だ。

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