私はこの春、高校の教員として2年目を迎えた。私は以前、民間企業で働いていたが、直接人と接しその人の人生にかかわることができるような仕事がしたいと、教師を目指した。他の人より遠回りしたけれど、ずっと夢だった仕事に就くことができ、充実した毎日を送っている。と言いたいところだが、膨大な日々の業務や不測の事態に忙殺され、気付いたら深夜まで学校にいることが多々ある。あっという間に一日が過ぎていき、今日自分は、生徒たちの記憶に残るような授業ができたのか、みんなのこころに寄り添った指導ができたのか、こんな大切なこともゆっくり考える時間などないまま、目を閉じるとまた新しい一日が始まっている。このままではいけないなと感じつつ、また毎日のドタバタの中であっという間に一日が過ぎていく繰り返しであった。
ある日の放課後。次の日の準備をしていると、一人の生徒が私を訪ねてきた。「どうしたの?」と尋ねると、彼はかばんの中からごそごそと私に箱を渡してくれた。開けてみると、カツサンドが入っていた。私がびっくりしていると「先生この間授業で、トンカツが大好きって言ってたでしょ。偶然トンカツ屋さんでバイトを始めたところで、今日、初めての給料日だったんだ。毎日、みんな全然授業聞いてないのに、先生すごい頑張ってるから、プレゼント!」と言って手を振って帰って行った。
私は、定時制高校で教壇に立っている。本当は昼間の高校に通いたくても、様々な事情から定時制を選んだ子がたくさん在籍している。経済的な事情から、アルバイトや仕事が終わった後、そのまま学校に来て授業を受けている子たちもたくさんいる。
もしかしたら、彼もそうかもしれない。それなのに、初めて手にしたお給料で、私にカツサンドを届けてくれたあの子。私は、大好きなカツサンドをほおばりながら、泣いた。私も彼のように、人に笑顔と元気とあたたかさを届けられるようになりたいと思った。