【 努力賞 】
【テーマ:仕事・職場から学んだこと】
チアーアップ通信
兵庫県 船本由梨 28歳

多くの学生がそうであるように、私も営業職は希望していなかった。だいたい営業といえばノルマとか売り込みとか、そういった悪いイメージがつきまとう。私はもっと華やかな仕事がしたいのだ。…今こうして文字に起こすとなんて浅はかな人間だと思うけれど、それが当時新入社員だった私だ。だけど、ある一言がきっかけで、急に仕事がとても楽しくなった。

本当にやりたいことならば、どこにいてもできる。私がそれに気づいたのは、教育担当である根本先生の一言だった。先生は、若手社員向けの論理力講座を行っている社外のコンサルタントで、毎回、ビジネスコミュニケーションとかゼロベース思考とかいう意味の分からない横文字を並べ立てる。講義は正直苦手だったのだが、先生の雑談は面白いので、休憩中は話しかけることも多かった。その日もいつものように休憩中に一緒にコーヒーを飲んでいると、先生がこんなことを言った。

「私はね、本当は教師になりたかったんだ。だけど色んなことがあって諦めた。教授に気に入られなかったしね。でも今私はこうして君たちを教えている。やりたい仕事は、フィールドを変えてもできるものだ」

何気なく放った一言だが、私は先生の言葉がすごく心に残った。なぜなら、私にも本当はやりたいことがあったからだ。本が好きで、小学生の時は小説家になりたかった。大人になってからは出版社で働きたいと思った。けれども面接では全部落ちて、こうしてメーカーで営業職をしている。でも根本先生のように、私だってこの環境でも文章を書くことだってできるかもしれない。そうして始めたのがチーム内のメールマガジンだ。タイトルをチアーアップ通信と名づけ、チームメンバーの営業方法や成功事例を配信するという内容にした。果たしてメンバーに面白いと思われる内容だろうか。業務で忙しいのに読んでくれるだろうか。多少の不安はあったが、何度か続けていくうちに、メンバーからの反応も来るようになった。「このトークすごく良い!僕も真似します」「成功事例だけでなく、失敗事例の共有も勉強になるんじゃない?」。彼らの反応を受けて内容を作り変えていくうちに、「いつもチアーアップ楽しみにしているよ」と言われ、ついには他チームのマネージャーから「俺にも送ってよ」と声をかけられた。自分の文章が誰かの役に立っているという実感が嬉しく、気づけば会社に行くのが楽しくなっていた。そして嬉しい誤算だが、売上げ成績も良くなった。チアーアップ通信を書くために色んな人から情報収集をすることで、必然的に営業スキルが上がり、効果が数字に表れたのだ。チームメンバーを励まそうと始めたチアーアップ通信で、一番チアーアップされていたのは実はこの私だった。

この仕事は、「天職」と呼ぶには戸惑いがあるが、「楽しい時間」が確かに存在する。そして、それはとても幸せなことだと私は思う。本当にやりたいことは、どこにいたってできるのだ。

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