【 努力賞 】
【テーマ:女性が輝ける働き方】
ふたつの言葉
大阪府 マロン 24歳

「女性のシアワセは、所詮結婚やけんね」
過酷だった浪人時代を終えたとき、担任だった男性は私にそう言った。
「女性は学歴も、職歴も関係ないんよ。いい旦那さんを捕まえること」
自信たっぷりにそう告げられた私は、何も返す言葉がなく絶句した。

大学を卒業した私は、中小企業に就職した。
今の職場は、9割以上の女性パートタイマーに支えられている。
時折、あの担任の言葉を思い出す。
職場の女性は、独身だったり、結婚していたりと様々で、皆それぞれに楽しそうだったり、苦しそうだったりしている。
「結婚」は「女性のシアワセ」に、直結はしていないようだった。
ただし、女性ならではの「仕事上」の不都合は確かに色々とある。

ネームバリューや各種待遇が整っている大手企業に比べると、中小企業の採用は大変だと言う。私の勤めている会社も例外ではなく、あの手この手で人材確保にいそしんでいる。
その中でも、ここ最近のビック・プランは、報奨金制度。これは言うまでもなく、パートタイマーに対する成果報酬の一環だが、問題となってくるのが103万円・130万円の壁。いわゆる所得控除だ。
「もらって嬉しいはずの報奨金で、こんなに悩むとはね…」
導入後初めての給与計算後、先輩社員は、苦しげに呟いていた。
優秀な人にはしっかりと働いてほしい。そのためのインセンティブだったはずが、思いのほか悩みの種になった。「これ以上は、働けない」シフトの時間数を減らす人まで出てきたのだ。
「頑張って働いた分のご褒美をもらったのに、頑張ってはいけない状況になるなんて、おかしいよね」
この矛盾を解決すべく、扶養を外れて働いてほしいと言うことは簡単だ。扶養枠を超えてバリバリと働くことで得られるものはたくさんある。
ただ、パートタイマーの場合、何かしらの事情があり、敢えてその働き方を選んでいることも少なくない。
特に育児や介護を抱える場合、フルタイムで働くことは難しいかもしれない。
私自身、結婚して子供を産み、育てることになった場合、フルタイムで働けるかどうか不安に思っている。
両親の協力が得られるならまだしも、ダブルワーキングで今のような働き方ができるとは思えない。
「女性は家族に左右される」
担任が言っていた言葉は、残念だけれど、事実だと思う。でも、その中で、一生懸命に働いている人がいる。働きたいと強い意志をもっている人がいる。

女性がしなやかに働くことのできる社会。私は、それを諦めずに追及していきたいと思っている。なんといってもネックとなるのは、労働時間の問題。所得控除の問題も、大きい課題であることは間違いないけれど、生活と切実に関わり合いをもたらすのは、労働時間の方だと思う。短い時間で効率的に働いてもらうために、短時間正社員という解決策があるかもしれない。一方で、長時間働いてもらい、家庭での時間も充実させてもらうためには、育児・介護に関する制度を整える必要があるかもしれない。私は、今のフィードで、できる限り、働きやすい職場になるように考えを巡らせている。

浪人時代を終えたとき、寮母からも、手紙をもらった。
「これからの社会は、女性もしっかりと働ける社会。
あなたみたいな女性に輝いてほしいし、世の中の女性のためになる仕事をしてね」
長年、専業主婦で通した寮母は、旦那様の定年退職後に職を探したと言う。
「なかなか仕事が見つからない中で、やっと探しあてた仕事だったけれど、天職よ」と、寮母はいつも胸を張っていた。

担任のことばにショックを受けていた私は、捨てる神あれば拾う神ありだと心から思った。
私は今でも、ふたつの言葉を忘れずに働いている。
一つの言葉は私を奮い立たせる。もう一つの言葉は私に勇気を与えてくれる。
これからも、ずっと忘れずにいようと思う。

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