笑顔がとても素敵―その言葉は私の胸にすっと沁み入っていった。19歳、大学二年生の初夏だった。憧れていた大学、学部、初めてのアルバイト、充実感はあるものの、どこか何かが足りない、物足りない。17歳の夏に描いていた自分とのギャップにどこか焦りを感じていた。そんな時、高校生の頃から漠然とした関心があった海外に行く事を決めた。自分が生まれ育った国は違う国から見たらどんな風景なのか、力を入れて勉強してきた英語は使い物になるのだろうか、私は、どんな人間なのか。そんな途方もない命題をかかえて私は東京から3017キロ離れたモンゴルに旅立った。日本人が少ない国ならどこでも良かった。モンゴルではNGOの植林活動に参加をして、現地の大学生とも交流をもった。3人兄弟の末っ子で内向的な性格の私の初めての一人旅、初めての海外だった。参加者は日本人が多いものの現地のNGOの人を含めて5カ国以上の国からの参加者の共同生活だった為、公用語は英語であった。英語は好きで、高校生の頃成績は常に上位、大学受験も英語の得点が全体の半分を占める学科を受験していた為、自信はなかったものの意思疎通はできると考えていた。しかしその僅かな自信はすぐに崩れ落ちた。自分がどんな興味・関心をもってモンゴルに来たのか、どの様な主義主張をもっているのかをうまく伝えることができなかった。言葉が伝わらないということの重みを、身を以て実感する経験だった。モンゴルでの滞在期間は一週間、その期間を言葉が有効に機能しない中でどの様に有意義に過ごすのかを考えると、私はとても気が遠くなった。伝えたいことが伝えられなくて孤独でいっぱいだった私は、日本に居た時よりも自分を見失いかけていた。何かを得られた実感の無いまま時間は刻々と過ぎていく中、最後の夜、皆で語り明かしていると韓国人の女性に言われた。「あなたは、英語はうまくないけど、一生懸命伝えようとしているのが伝わるし、それに笑顔がとても素敵。笑顔は周りを幸せにするからその笑顔を忘れないでね」と。その言葉は私にとっては救いの一言だった。私は当時漠然と国際協力に関心があり、人の役に立ちたいと考えていたが、自分にできることが見当たらなくてもがいていた。しかしその言葉で自分という人間を少し分かった気がしたのだ。難しいことでなくていい、私は誰かを喜ばせたいのだと。誰かの為に一生懸命何かをして、誰かを少し笑顔に出来ればそれで良かったのだ。私の長所は一生懸命なこと、笑顔を忘れないこと。その二つを活かして仕事を通して人に小さな笑顔を生んでいきたいと思った。それが今の私の仕事を決めたきっかけである。