【 佳 作 】
「二足の草鞋を穿きたい」
小学生のとき、そう思った。
テレビで、仕事を二つしている人たちを見たのがきっかけだ。日によって違う仕事を違うメンバーとし、起きている時間の大半を仕事に費やしている姿に、大変だけど面白そうだと感じた。一番印象的だったのは、どの人もイキイキと仕事をしていたことだった。
私も働くことを楽しめる大人になりたいと、強く思った。
大学卒業後、正社員として仕事に就いてからは、日々、大量の覚えることと業務に囲まれて忙しく働いた。責任のある仕事も多く、やりがいも感じることができた。
しかし、心のどこかにもやもやしたものがあった。それは、中学生から持っていた作家になりたいという思いだった。
初めて小説を書いたのは小学校高学年。中学生のときには、書いた小説を友人に読んでもらうこともあった。物語の設定や展開、キャラクターなどを書き溜めたネタ帳は実家を離れた今も手元にある。
子供のころに抱いた作家として生きたいという思いを叶えよう。28歳のときにそう決めた。
会社員か、作家か。
この二者択一で考えていたある日。作家のなかには、会社員をしながら作品を生み出している人もいることを知り、二足の草鞋を穿くという働き方を思い出した。
そのときから、どちらかを選んで働くのではなく、会社員と作家のどちらも仕事にしようと、決めた。
働くということは他者に貢献するということだ。どんな形であれ、自分以外の誰かの役に立つ、それが働くということだと私は思っている。小学生のときテレビで見た人たちは、二足の草鞋の両方で社会とつながり、社会に貢献していた。複数の手段で役に立つという働き方は贅沢なことだと思うと同時に、今の日本では必要な働き方だとも思う。
たとえば、非正規社員として雇用されている人たちの低年収は、もう一つ仕事をすることによって補うことができる。また、会社とは別の仕事を持つことで、会社の倒産や業績悪化に伴うリストラでも無収入になることは免れる。
それに、これまで言われてきた「やりたいことは趣味にして、できることを仕事にする」というのも、二足の草鞋なら両方を実現できる。
やりたいことをすることが高尚なわけでも、できることを仕事にすることが諦めなわけでもない。どちらも社会貢献に違いはなく、立派な仕事だ。
日本ではまだまだ副業を禁止する会社が多く、一つの仕事に注力するのを良しとする風潮があるように思うが、二足の草鞋の穿きやすい、多様性を認める社会の方がよりイキイキと働ける人が増えるのではないか。
そんなことを思いながら、私は今日も、作家を目指しつつ会社員として仕事をする。そして、作家になったあとは、二つの仕事に全力で取り組み、それぞれの仕事で得た経験をもう一つの仕事に活かしていきたいと思っている。