【 佳 作 】

【テーマ:私の仕事・働き方を決めたきっかけ】
ボラバイトから得たもの
立命館大学政策科学部 白神加菜 20歳

私は今、ボラバイトをしている。それはボランティアでもアルバイトでもない、少し変わった働きかただ。仕事場は、主に日本全国の農家や牧場。条件は受け入れ先によって異なるが、その多くは三食食事付きの住み込みだ。位置づけとしては有償ボランティアに近く、少ないながらもお給料ももらえる。農業や畜産業に興味を抱いている人、その仕事を体験してみたいと考えている人に向けて、広く門戸が開かれている。

私がはじめてボラバイトをしたのは、大学二回生の夏休みだった。アルバイトもしていない、サークルの予定も特にない、遊ぶ予定も少ないと三拍子揃って、悲しいことにスケジュール帳は見事に真っ白。その一方で、大学の友達は海外留学にバイトにと、忙しくも充実した夏休みを過ごしている。きっかけは、そんな状況の中でひしひしとわきあがってきたただの危機感だった。受験を乗りこえ、安穏とした大学生活をのんびりと過ごしていても、迫り来る就職活動の足音は日に日に大きくなっていく。リクルートスーツを着て、未だに慣れない化粧をして、とりあえず上辺だけを取りつくろうことはできるかもしれない。しかし、このままの調子で大学生活を過ごせば、きっと中身は空っぽなままだという確信があった。「あなたが大学時代に打ち込んだことはなんですか?」面接で聞かれる定番中の定番であるこの質問に、空っぽな私はきっと答えることができない。

このままじゃだめだ、働こう!と鼻息荒く意気込んだ私は、とにかく手当たりしだいに情報収集に励んだ。ただ働くだけではなく、何か話のタネになるような少し変わった経験がしたい。そんな思惑と、小さい頃に熱中したゲームの影響でずっと心のなかにあった農業への興味が結びつき、私はボラバイトという働きかたを知るに至った。はじめて受け入れていただいたのは、もう何十年もご家族で農業をしているトマト農家さんだった。そこで一ヶ月を過ごした後も、それから毎日のようにボラバイター募集情報をチェックし、暇があれば積極的にボラバイトに赴く生活を続けている。今のボラバイト先で、三件目。トウモロコシとブドウの生産から販売までを行う農業法人で、収穫や仕分けなど、さまざまな作業に追われて働いている。

ボラバイトをするようになって、生活リズムも価値観も日々の生活を送る上の意識も、すべてが変わった。まず朝が早い。日の出とともにはじまる収穫に備えるために、遅くとも夜の九時までには眠りにつく。野菜を収穫し、状態を確認して仕分け、汚れや虫を拭き取るという一連の手間の数々を知った今、国産の農作物を値段だけで輸入品と両天秤にかけて高いと切り捨てることもできなくなった。やるべき仕事は、次から次へとやってくる。無意味に、無価値に、無感動に過ごしていた時間を労働に費やしてみると、あんなに単調で長く感じていた一日があっという間に過ぎていく。決して楽しいことばかりではない。それどころか、厳しくて、辛くて、先の見えない作業の連続だ。しかし、一度やり遂げれば、それは確かな自信に変わる。あれだけのことをやった、仕事の厳しさを知ったと、今の私ははっきりと言うことができる。

ボラバイトという働きかたを通じて、私にひとつの目標ができた。大学を卒業したら、地元に戻って、地元の農業に関わる仕事に就くこと。特別な思いも、技術も必要ない。この身ひとつと、小さなきっかけだけで、行動に移すことはできる。そうすればきっと、何かしら感じることや、得られるものがきっとある。

さて。今日は久しぶりの休みだが、明日からはまた仕事で、言うまでもないが朝が早い。今日一日はゆっくりして、明日に備えて早めに眠りにつくことにする。

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