【 佳 作 】

【テーマ:私がやってみたい仕事・働き方】
60兆個の自分を輝かせて
淑徳SC高等部 長尾光玲 16歳

掌を太陽に透かして見る。ミスティローズのような16歳の柔肌がギラつく太陽の視線に焦がされる。痛い。乾く。蒸発する……だが、そんなことでは引き下がらない。なぜならその柔肌には、内在する60兆個の『私』がいるからだ。私の中の強靭な『自分細胞』の一つ一つが完全に無くなるまで……いや、この世における私の仕事が完全燃焼し尽くすその日まで、私の掌の60兆個はいきいきと輝き働き続けるのだ。これが先人やなせたかしさんの歌『掌を太陽に』の歌詞に触発されて掴んだ私なりの人生低迷脱出法、そして一生をかける仕事の働き方である。

高校2年生ともなれば何がどうであれ、『働く』ということが身近に迫ってくる。同時に自分の将来への莫大な期待と、またそれ以上の不安と焦燥が、まるで積乱雲がむくむくと盛り上がる様に日々こみ上げてくる。時にはその不安に押し潰されそうになる。若いから、未熟だから、何分経験不足なので、といった理屈付けをしながらも、わけのわからない大きなプレッシャーにギュッと圧縮され、社会は勿論、両親や兄弟、友達までもが、自分をたった一人置き去りにしてしまうのではなどと思ったりもする。十代後半の私達にとって、『働く』ということはそれほどの重みを持って切迫するものなのだ。

私はシナリオライターになりたい。映画やテレビのドラマを通して、人々を勇気づけたり励ましたり、人生に希望を持ってもらえるようなそんな作品を創りたいのだ。文才があるかどうかわからない。無きに等しいと思う。運も必要だろう。人脈作りも上手くないと成功は難しそうだ……どれもが今は未知数に違いない。だが3歳の頃、ディズニー映画『ムーラン』のワン・シーンを観るたびに、哀感極まって泣き崩れた自分の感性を信じたい。なぜならその時こそが私の中の60兆個の細胞一つ一つが覚醒し、その溌剌とした輝きを放った瞬間だったからだ。自ら感動する力が深ければ、人を感動させる力も潜在すると思いたい。

だから私は『将来ぜひやってみたいシナリオライターという職業』へ真摯に向き合い、逃げ出したりしないで、只々一全身全霊で私の60兆個の自分細胞を活性化したい。その輝きを200%出しきってみようと思うのだ。

既にそのスタートをきって4年になる。全国規模のシナリオ・コンクールは毎年5,6回あって、常に新作もので勝負しなければならない。初めて応募したのは中1の秋だった。まる2日間、週末を利用し飲まず食わずで100ページ、約2時間ドラマ分を書きに書いた。自分が創るドラマの主人公が憑りついたようにセリフが聞こえ、自動書記状態でパソコンをバンバン打っていた。書き上げた瞬間のたとえようもない達成感、充実感は忘れられない。

しかしそのゴールは果てしなく遠く思える。年間3作以上は書き上げてきたシナリオ公募作品のどれもがまだ陽の目を得ていないからだ。実際のところ、1時間ドラマ作品(約55〜60ページ)のだいたい30ページあたりから話の展開がスローになることが多い。無論ハリウッド3段方式のスピードについて行けず、主人公の葛藤シーンの積み重ねが上手くはまりきらないでいる。構成力という難点は見えているのだけれど、技術が追い付かず焦りも出てかなり停滞気味だ。

青春は短い。けれど人生はまだまだ長い。そうだ。今こそ瞳を見開きよく自分を見つめて直してみるといい。私の中の60兆個の自分細胞は、この瞬間にも滅しては再生し、苦悩を糧としてより高次元の遺伝子を紡ぎ続けていてくれるのだから。私はたった一人ではない。

シナリオライターは厳しい世界だろう。書けなくなって悶え苦しむことも多々あると思う。いや、デビューそのものが出来ないかもしれない。その日は50代かもしれない。『それでも君はそれを目指しますか?』と問われたら、私は迷うことなくYESと答える。そして、掌を太陽に透かし項垂れた額をあげ、60兆個分の自分自身を味方につけ再び挑戦する!

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